偶然が重なり、すれ違いが続く。
今日こそはサンジと過ごす気満々で、早々と入浴も済ませたゾロは階下へ向かった。
そこへサンジが現れた。瞬間、互いに浮かんだ喜色は気のせいか。
サンジは女主人の部屋から現れたのだった。
ゾロの顔から血の気がひく。
「よぉ、もう風呂入ったのか。おれ、まだなんだけど、このままお前んとこ行っていいよな?」
質問の形を取っているが、決定事項のように話す声がゾロの耳を滑っていく。
「部屋に戻れ」
「え?」
「今日は・・・疲れてっから、おれぁ寝る。」
サンジから目を逸らしたまま、言い捨てて踵を返す。
サンジがどんな表情をしているか気づかないまま。顔に浮かんだ色をゾロは知らない。
極力平静を装って部屋に戻ったゾロは震える手でドアを閉めた。大きな音を立てそうになるのを全神経を向けて抑え、やっと閉まったドアにもたれかかる。
「酒、持ってくるの忘れたな。」
なんてザマだ。
浮気なんかされたときにゃ、重ねて四つに斬ってやる、そう公言もしていたし、そういう気性だと思っていた。
それが・・・いざ、目の当たりにしてみれば 問い質すことすら出来なかった。
「なにを聞くっていうんだ・・・」
女の部屋からでてきた姿、寝癖のついた髪、乱れた襟元、トレーでも持っていれば、単なる給仕と思うこともできたが。
・・・決まりだろう。
苛々と髪をかきむしる。
思い返せば最初から、あの女に対する態度はおかしかった。
メロメロしなかったのは予兆だったんじゃないのか?
なのに、それを喜んでいた間抜けな自分に腹が立つ。
ここ数日のすれ違いだって、本当に偶然か?
いつだって、忙しいのはあいつで、生活リズムはあいつの手の内じゃないか。
翌日はサンジの朝飯も味がしなかった。
昼には作業を理由に帰らず、弁当にした昼飯をウソップが届けてくれた。
夕飯さえ、目を合わさないまま、機械的に噛み、飲み込んだ。
なんだ。一緒に暮らしてたって、案外 簡単にすれ違えるもんだな。
ゾロの無表情に拍車がかかり、チョッパーが怯えても、ウソップがおもしろおかしく話しかけても、ゾロは怒りも笑いもしなかった。
さらに2日が経った夕食時、サンジがこれ見よがしに口を開く。
「あぁ、そうだ!これ仕込んじゃわなきゃな~。ウソップ、今晩おれ部屋に戻らねーから。気にすんなよ?」
ナミが徹夜を心配して声をかけるのを軽くかわし、サンジの視線はゾロに固定されていた。
もちろん、ウソップと呼びかけながら自分に向けられた言葉と理解している。
なのに、夜半に部屋のドアがノックされても、ゾロは出ることが出来なかった。
カギをかけたノブをガチャガチャと回されても、ただ息をひそめてサンジが諦めて帰るのを待つのだった。