コーリング 10

「たっだいま~」
ナミの明るい声が玄関に響く。
「おかえりなさ~い。ナミさん、ロビンちゃん、お疲れ様。」
「あなたこそ、顔色悪いわ。お疲れ様。」
「今日、生徒多かったのよね。流石うちの稼ぎ頭、ありがと、サンジくん。」

「どういたしまして。女神二人から労われて、感謝されて、天国気分だよほ~~~」
座ってて、と言いおいてキッチンに立ったサンジの後を待ちきれないとばかりにナミがついて行く。

ウィンリーが居ないときに限って、ナミがやけに近くに居たがることにサンジは気づいていた。
いるときはままごとのように、楽しくウィンリーの相手をするが、居ないときは殊更に近寄ってくる。
突然産まれた赤ん坊に、嫉妬する兄姉のように。
ナミとチョッパーが顕著だが、ウソップやルフィ、ロビンでさえ、その傾向が見える。
この数日、サンジを避けて行動しているのはゾロだけだった。
ケトルを熱する火を見つめ、落ち込みそうになる思考をナミの明るい声が引き上げる。

「でね、角のお肉屋さんが前日に連絡すれば、ボイルソーセージやハムソテーを朝届けてくれるって。」
「ああ、あの店はソーセージの種類も多いし、良さそうだね。」
「明日の分、早速頼んで来たから。」
「じゃぁ、明日のモーニングはホテル稼働をかけた試食会にしよう。」
「コック募集しないで、ホテルとして成り立つかしら。」
「収入のメドが立たないのに、他人を雇えないよ。喫茶店中心でうまく回ってから考えるしかないね。」
「商売は、一獲千金とはいかないわよね~、性に合わないわ。」
「あははっ。海賊は一獲千金狙いで良いのさ~!」
揃ってラウンジに戻ると、ロビンがサンジのレシピノートを眺めていた。

「勝手にごめんなさいね。」
「いやぁ、おれが出しっぱなしにしてたから。狭いだろ、すぐ片づけるね。」
「いいえ、大丈夫。とても興味深いわ。パンケーキをウリにするのね?」
「そう。同じ手順で食事も喫茶もイケるし、ウィンリーがマスターしたからね。」
「生徒からめぼしい人見つけてスカウトするんじゃなかったの?」
それもお菓子教室の目的のひとつだったのだ。
「そっちは3人声かけてあるよ。マダムとも話したし、5歳児を柱にするのもどうかとは思うけど・・・、あの親子はずいぶんみんなに愛されてるみたいだから、大丈夫だろう。盛り立ててくれるんじゃないかな。」
領主の末裔、その昔島民を守り、島民に愛された一族はその役目を終えた今も島民に慕われているのだろうか。
「それは私も感じたわ。チラシ置いて貰ったどの店でも、夫人のことを心配してた。」
「そうね、ここの調度品を買っていった道具屋さんも、あれは預かりものだからって売りに出してなかったのよ。いつかこの城に買い戻されるのを待ってるのね。」
ロビンは後半の言葉をラウンジの入り口に顔を向けて話した。
そこには、ドアを開けたまま立ち尽くす夫人がいた。

胸に抱えた洗濯物に顔をうずめる夫人にサンジが駆け寄り、そのカゴを受け取ると空いた片手で肩を抱く。
そのとき、玄関のドアが開かれた。

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