刺すような腹部の痛みで目を覚ましたサンジは、ギシギシと軋む体を叱咤して階下へ足を運んだ。
温かい湯に肢体を沈めると、すべて夢だったような気がしてくる。
手首に視線を落とす。
そこには隠しようもない縛られた痕があった。
二人の関係で恐怖を感じるのは初めてではない。
立場の違う受け身のセックスに。
変わっていく自分の体に。
一人で生きていけなくなるんじゃないかと感じたときに。
けれど。
ゾロ自身を怖いと感じたのは初めてだった。
「くそっ」
振り切るように立ち上がると、身仕度を整えた。
肌寒い朝の空気の中、なだらかな山道を上りながらも、頭を占めるのは迷いなく突き進む男のことばかり。
要るもの、要らないものをきっちり分けて、不要と決めたら二度と振り返らない。
その男らしい潔さには、憧れすら抱いていた。
どうして、自分は特別だと信じてた?
仲間だから、男だから、一緒に走り続けられるって?
勝手について歩くのも同じだな。
木々の隙間から城が見え隠れしている。
あと、少し。なのに、サンジの足は縫い止められたように動かない。
そのまま、ズルズルと大樹の根元に座り込んだ。
対等だと思っていたのは間違いだったのか。
単純に戦闘力を比較したら、負けるだろう。
目指すものが違うのだから当たり前だ。
しかし、闘いにおいて引けを取るつもりはなかった。
「完敗じゃねえか」
自嘲気味に歪めた口にタバコを挟む。
この関係はゾロの気持ち次第。
愛の交歓ゆえ躰を繋げると思っていたサンジにとって、それは耐え難い衝撃だった。
そうするのも、暴行にするも、ゾロの手のひらの上。
簡単に認められることではなかった。
「サーンジー!!」
軽快な蹄の音とともに心配げな声がする。
座ったまま手を差し伸べるサンジの顔は赤く腫れ上がり、唇の端が切れていた。
瞬時に人獣の姿に戻ると涙目で訴える。
「朝ご飯の時間なのに、サンジいねーから!外で匂いがしたから迎えに来たんだ。何やってたんだよ、そんなカッコになって!」
「酔っ払いとケンカしてな、ちょっとしくじっただけだ。朝メシはどうした?」
「お肉屋さんがハムやソーセージを持って来たんだ!ウィンリーも一人で何か焼いてて、うまそうだぞ!」
「食べずに来てくれたのか?悪かったな。」
「みんな待ってるぞ。ルフィだって、ウソップとゾロが止めてるから食ってねぇぞ。ナミが、サンジがチェックするまで食べちゃダメだって言ったんだ!」
「マリモも、いるのか・・・?」
「うん!ちゃんと起きてるぞ!」
「そう・・・か。レディたちをお待たせしちゃいけねぇ、急いで帰るか」