朝食の席にサンジが遅れるという失態を、笑いで迎えようとしていた仲間はその顔を見るなり固まった。
「平和な島だと思ってたのに!何があったの!?」
ナミの叫びと同時にウソップがゾロに掴み掛かった。
「おまえ!何やってんだ!」
突然の行動に唖然とした面々だったが、それが理不尽な行動ではないことは、ゾロが避けようともせずウソップのこぶしを待っている姿が物語っていた。
「ウソップ!
やめろ、メシだ。席につけ。」
サンジの一喝でテーブルについた面々だったが、重苦しい朝食になるのはどうしようもなかった。
サンジは母子に給仕の指導をしながら、席に着き、楽しげな話題を次々とふるが、それは誰の耳にもうわっ滑りしていく。
ムードメーカーのウソップが一言も発しないのだから、致し方ない。
薄い氷の上にいるかのような、ぎこちない雰囲気のまま朝食を終えた。
同時に立ち上がった二人を、サンジが呼び止める。
しかし、その後の言葉が続かない。
「いいぞ、ウソップ。メシ済んだんだから行けよ。そうだろ?サンジ。」
「・・・ああ、船長。」
辛うじて同意の言葉を口にし、立ち尽くすサンジから、絞り出すように細く長い息が漏れる。
息を吐き切ってバッと顔をあげたとき、先ほどの苦渋の色は無くなっていた。
「っし。チョッパー、治療してくれ。午後のレッスンまでにこの顔をなんとかしねーとレディ達を怖がらせちまう。」
階段を上がっていく、2人の姿を見送ったナミが、くるりとルフィを振り返る。
「ちょっと!なんなのよ、あいつら!あんたは何を知ってるの?」
「おれは何も知らねーぞ。ただ、こういう時ゃ、ウソップに任せとくのがいいんだ。そんだけだ!」
「何よ、それぇ!何にもわかんないじゃないのよぉ!」
階段を二つ上がりきった正面はゾロの部屋。
サンジたちがそこまで上ったとき、室内からバン!という衝撃音が響いた。
思わず、サンジがビクッと肩をすくめたが、前を行くチョッパーが盛大に驚いて飛び上がったため、知られずに済んだのだった。
サンジの傷はみかけほど酷くはなかった。幸いなことに、数時間冷やせば腫れも治まりそうだった。
「サンジ、顔だけじゃないだろ?まだ血の匂いがしてる。診せてくれよ。」
「悪ぃな。それは勘弁してくれ。」
「サンジ…。患者のプライバシーは守るよ、おれ…」
「あぁ、わかってる。けどな、大事な仲間だからこそ、知られたくねぇってこともあるんだ。」
「おれ、おれ…。」
「自分で塗るから、切り傷の薬だけくれるか?」
大きな目に涙を浮かべていたチョッパーの顔がパッと晴れる。
「切り傷なんだな!化膿止めを混ぜて、塗りやすいのにしてくるぞ!」
「おう、頼む。」
「サンジはちょっと寝とけ!これ痛みどめと化膿止めだから、飲んでからな!」
自室として宛がわれた部屋で、久し振りの休息をとるのだった。