ラプンツェル5

 

side SANJI

 

笑った顔が見たかった、と無茶を言うゾロにザッと自分のことを話した。

こいつん中でキレイな思い出でいたい、なんてーのも過ぎた望みだったんだ。

そもそも、噂なんて信じてない、と言い切るゾロに無性に腹が立って、

もっと汚いことをしてきた、とばかりにバラしたのはてめぇじゃねーか。

 

もう、良い。

 

どう思われても。

 

住む世界が違うんだ、汚いヤローだって放り出してくれりゃ良いのに・・・

ゾロはぎゅうぎゅうとおれを抱きしめ、わんわん泣いて、そのまま泣き疲れて眠った。

泣き寝入りって、赤ん坊かよ・・・

おかしくなって、おれまで引き込まれるように眠ってしまった。

 

もう何年も疲れて気絶するように眠る日常だったのに、

こんなに穏やかに眠ることが、おれにも、まだ出来たんだな。

朝目覚めると、おれより背は低いのに、部分部分には分厚い筋肉のついた、

成長期特有のアンバランスな体が胸元にしがみついていた。

 

おれは、鼻先をくすぐる短い緑髪を指に絡めながら、無意識にいつもの呪文を唱えていた。

ラプンツェル

ラプンツェル

お前の髪を垂らしておくれ

寝ぼけ眼のゾロが、何だそれ?って訊ねてくるから、くだんねー童話だって答えたら、

納得したような、しないような変な顔をしていた。

 

合格発表見るだけだから、とゾロは出て行った。

逃げるチャンスなんだが、小賢しいアイツは

おれの服から、備え付けの寝間着まで持って行きやがった。

おれのシャツだった布切れは昨日裂けたのをいいことに紐状にされて、

トイレとベッドがギリギリ行き来できる長さで、おれの足とドアノブを繋いでいる。

はめ込みの窓ガラス位蹴り割るのは簡単だ、飛び降りてやるって

言ったおれへの牽制なんだろう。

こんなん千切るの雑作もねぇってのに、ツメの甘いこった。

 

でもなー、中坊が泊まってた部屋から全裸の男娼が飛び降り自殺したら、

どうなるか、なんて考えるまでもない。

あいつは特に、無関係を装えるほど器用な男じゃねーだろう。

そして、

おれが死んだ道路を踏みしめて三年間学校に通えるほど無慈悲な男でもねーだろう。

 

ガチャリと、鍵を開く音がした。

 

嬉しさに跳ねる心臓が憎たらしい。

悟られまいと顔は向けず、椅子に座ったままテレビを見てる風を装う。

ダメだ、ゾロ。

一緒にいる時間が長くなりゃ、そんだけ情が湧いちまう。

やりたいようにさせてたおれが悪かった。

もう、離れたほうが良い・・・

 

唐突に思い出した。

王子はラプンツェルを助けられなかった。

いつものように垂らされた髪を登った王子は、待ち構えてた魔女にやられちまうんだ。

髪を切られたラプンツェルはどうなったんだっけ。

おれは、いつもそこで泣いて、母さんが読んでくれるのを遮っちまったから、わからない。

 

 

「あら、まぁ

うちの息子は犯罪者になったのかしら?」

 

部屋に響く高い声に、ギョッとして振り向くと麗しい黒髪のエキゾチックな美女が立っていた。

「なんてお綺麗なお姉さま~!」

 

条件反射で立ち上がったが、自分の姿を思い出して、

慌ててベッドに飛び上がり、シーツに潜り込んだ。

 

「し!失礼しました!お目汚しを・・・」

 

「こちらこそ。驚かせたみたいでごめんなさいね。

私はニコ・ロビン。ロロノア・ゾロの母です。

フロントでこの部屋って言われたんだけど、あなた、ゾロをご存知?

お部屋の間違いかしら?」

 

「いえ。ここはゾロの部屋です。

おれは、その・・・」

 

昨夜ゾロに買われた男娼ですって言っちゃって良いんだろうか。

 

「あなた、お名前は?」

「名前はありません・・・あー、ゾロはコックって呼びます。」

 

店で使われている名前を明かす気にはならなかった。

 

「コックさん

・・・私の記憶が正しければ、森の脇のお屋敷に住んでいた方じゃないかしら?」

 

弾かれたように、顔を上げる。

そうだった、ゾロの親なら知ってるだろう、おれを。経歴も含めて。

 

どこまでもついて回る、おれの汚物!

 

「やっぱり、そうなのね。」

 

答えないおれのそばに彼女は近づき、シーツの上からおれを抱きしめた。

 

「ずっと後悔してたの。生きててくれて良かった。」

 

その時、バターン!と凄まじい音がして、ゾロが飛び込んできた。

コック!

continue