ラプンツェル3

 

side SANJI

 

おれだって 生まれたときから底辺に居たわけじゃない。

幼い頃は海辺のレストランを経営していた両親の元でぬくぬくと幸せに暮らしていたんだ。

両親の突然の事故死から、降って湧いた借金話は子供のおれにはよくわからなかった。

わかっているのは、売れるものは全て売ったが、足りない分は体で返せ、と一変した自分の生活。

戸籍すら売られてしまったおれには逃げる術も、助けてくれる身よりもなかった。

ただ、夢を見るように、呪文を唱えて、髪を伸ばしていた。

 

 

ラプンツェル

ラプンツェル

髪を垂らしておくれ

 

 

 

今思えば

田舎の男に飼われた数年は悪くなかった。

裸のおれに首輪と尻尾だけつけて、四つん這いで散歩させるような変態ではあったが。

男が仕事でいない日中には出歩くこともできた。

村に出れば白い眼で見られることにはすぐ気づいた。

だから、いつも森にいた。

森の奥の沼は、海を思い出させておれを慰め、時に海との違いが悲しくさせた。

 

そこでマリモと会ったんだ。

マリモでっかくなってたな。

あんなにちびっこくて、泣き虫だったのに。

たくさん食えよって言ったら、ピーマン苦い、にんじん臭いってベロ出してたのに。

 

駆けっこしよう、木登りしようとじゃれつくマリモは、幼い頃の幸せだった自分そのもので、

可愛がらずにはいられなかった。

おれは、常にケツに拡張器を突っ込まれていたから、

あいつがしたがる遊びには一切付き合えなかったが、あいつはそれでも毎日来た。

ガキにとってお喋りなんて楽しいはずもないだろうに。

 

そんな日々が終わりを告げたのは、おれに変声期が来たからだ。

 

本物の変態ロリコンだった男は、おれを苛むのをばったりとやめた。

これで自由になれる、と一瞬でも浮かれたおれは、ホントに甘ちゃんだった。

 

最後の売り物はおれだったのだ。

 

まだ 最後じゃねーか。

 

おれの売値は相当高かったのか、15で開発されまくってたおれは結構稼いだはずなのに、

まだ借金は終わらない。

そんなバカな、と食ってかかって袋にされたのも昔の話だ。

もう そういうもんなんだ、としか思わない。

 

 

男娼なんて、寿命の短い商売だ。

現にトウのたったおれに、普通のセックスを求める客はつかなくなってきた。

 

変なもん突っ込みたがる変態ばっかだ。

まったく、おれのチラシにはどんな文句が書かれているんだろう。

 

以前三人同時に突っ込まれ、ひどい裂傷を負って以来、

4P以上は断れることになっているのが救いだ。

と言っても、何日も休む羽目になる方が損なだけなんだろう。

 

アナルボールやディルドなら良いが、ビール瓶や試験管は割れそうで怖い。

薬を打たれんのはキツイし、炭酸入れられんのも気持ち悪ぃ。

出てきたそんなんを飲まされんのは、いまだに吐き気がする。

完全に売り物にならなくなったら、バラして内臓を売るんだろうに、

直腸や胃も労って欲しいぜ。

 

 

もう、疲れたな。

 

 

おれはどうして生きているんだろう。

 

 

電車に飛び込んでバラバラになったら、ちったぁ意趣返しになるかな。

 

 

でっけぇマリモも見れたし、もう良いんじゃないかな。

 

 

あぁ

せっかく昨日は仕事が無くて、腹も下さずに済んだってのに、またメシを抜いてしまった。

でも、もう夕暮れだ。

今更、食うワケにゃいかない。

 

 

いや、今日死ぬなら、食ってもいいのか。

次から次へと思いつくまま考えていたおれを携帯の着信が現実に引き戻す。

 

「もしもし」

 

『指名が入った。

昨日のアガリを受け取りがてら迎えを回すから、出勤準備をしておけ。』

 

出勤準備ね、浣腸ひとつに大層な言い方だな。

 

『聞いてるのか?わかったな!』

 

「おぅ」

 

今日は駅に行けないのか―――

 

continue


ごめんなさいぃぃぃ!

これから、幸せになりますから!