ラプンツェル2

受験で慣れない緊張を強いられ、ホテルの部屋でうたたねしていたおれは、

ドアに響く轟音に叩き起こされる。

何事かとドアを薄く開けた途端、金髪が飛び込んできた。
「わりぃ!ちっと匿ってくれ。」
スルリとドアから入り切った男はあっという間にチェーンロックまでかけ、携帯を取り出した。

「おれだ!
なんだ、あの客。三人で待ってやがったぞ!

金は一人分だ、ロングな。
おれは直帰すっから。

あぁん?
違約金貰ったんだ、今日の仕事は終ぇでいいだろ、文句あっか?

あぁ、わかってる。」
バチンと叩き折る勢いで携帯を仕舞うと、呆気にとられていたおれを振り向いて

ニコッと笑った。
「騒がせちまって悪かったな。」

「コック?」
「は?」
「コックだろ?
覚えてねーか?おれ、ロロノア・ゾロだ。」
「マリモかぁ!!
そうだ、その緑頭。
あぁ、でっかくなりやがって!」
おれの頭に手を伸ばしかけたコックだが、スッと引っ込める。
「いや、悪かったな。
てめぇは旅行か?」
「いや、受験で。
今は、こっちに住んでる。」
「なんだよ。こっちに住んでんのに、ホテル泊かー。贅沢モン。」
にこやかに喋りながらも、帰りたそうな素振りが見え隠れするコックを引き止め、

ルームサービスの夕食に同席させることに成功した。
別れてからの自分のことを喋り倒し、コックの過去に水を向けるが、かわされ続ける。
口の立たないおれは、喋り疲れ、非難するようにポロッと言ってしまった。

「てめぇ、急に消えっから。」

ニヤリと笑ってコックは、逆に尋ねてきた。
「あの村に居たんだろ?
おれのこと聞かなかったのか?」

聞いていた。
コックはあの男の愛人で、捨てられたのだ、と。
が、おれは信じていなかった。
母親にも口汚くイヤミを言い続けたババァどもの言葉など、信じるはずもねぇ。
そのままコックに告げる。

「ふーん。
確かにちょっと違ぇな。」
「だろ?やっぱりな!」
「捨ててくれたら自由になれたんだがなぁ。
売られたんだよ。
まいんち何本もチンコくわえ込む穴蔵にな。」

固まるおれの脇をすり抜け、コックが出て行った。
ドアが閉まる直前、
「じゃぁな、ごっそさん」と何でもない言葉を残して。

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