草原の羊 1

「今日の不寝番てめぇか。」

見張り台に登ろうとするサンジに、ゾロが声をかけた。 不機嫌そうなその顔を見て、盛大に口を歪めるとチンピラのように言い返す。

「信用できねーか?わりぃがてめぇが認めてよーがなかろーが、もうおれぁこの船の一員だぜ。任せて寝るのが怖かったら起きてりゃいいさ。」

「んなこたぁ、言ってねーだろ。寝る!」

男部屋のハッチを乱暴に開けたゾロが飛び降り、それを見届けたサンジも鼻息荒く見張り台を登って行った。

 

 

 

 

 

「ふあ~ぁ、流石に眠ぃなー。」

サンジがあくびをしながら一人ごちる。

常から睡眠時間の少ない性質だが、徹夜明けに朝食の支度、洗濯をしてお茶の用意、昼食と続いて、今はおやつを作っているのだから、当然だろう。

キッチンの扉が開き、しかめっ面のゾロを目の端に認めると、反射的にしかめっ面を作ったサンジが声をかける。

「今、手が離せねぇ。冷蔵庫にてめぇのドリンクあっから勝手に出せ。」

「・・・・・なんで、てめぇは昼寝しねーんだ。」

「は?今手ぇ離せねーって言ったろうが。おまえと違って忙しいんだよ、おれは!」

うんともすんとも言わず、手間をかけて作った栄養ドリンクを味もわからないだろう勢いで呷り、出ていくゾロに舌打ちをする。

「なんなんだよ、あいつは。わっけわかんねー!」

ガン!と精一杯加減して蹴っ飛ばした樽が砕けてしまった。

 

 

 

 

 

毎日のように喧嘩をしながら、いくつかの嵐を抜け、凪を越えた頃、サンジが不寝番の翌日、ゾロの機嫌は殊更悪くなることに気がついた。

なにしろ人数の少ない一味だから、不寝番なんてすぐに回ってくる。その度に不機嫌なゾロを見ては、まだ信用されないのか、とサンジの中に小石のようなものが積もっていく。

寝食をともにし、並んで戦い、一緒に船を守っているというのに。

コック、コックと呼ばれる度に、コックであること、それ以外は拒否されてるような気すらしてくるのだった。

 

 

その日、羊頭の船は大きな港町を擁す島に到着し、浮かれたクルーは船番のゾロを残して飛び出していった。

大まかな買出しを済ませたサンジが船に戻ると、緑の髪を風にそよがせ、穏やかな顔でゾロが眠っている。

「盛大な仕事放棄だな」

どうせ、不穏な気配でもすりゃ飛び起きんだろうけどよ。

海鳥が鼻先を掠め、傍らで羽根を休めてもピクリとも動かない男の瞼が重たげに開き、ジロリとサンジを捉えた。

(おれは・・・不審者かよ。

あぁ、そういや・・・おれ、不寝番明けじゃん・・・)

 

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