惜別歌

オールブルーにほど近い小さな島。

こじんまりとしたレストランのドアを開けるのは、ぼろ布を纏った大柄な男。

「よーお、大剣豪。お早いお帰りじゃねぇの。」

「ふん。」

「すぐメシにすっから風呂入ってこい。」

 

ふんふんと鼻歌を歌いながら、楽しげに次々と料理を並べていくと同時に、

上手いでもなく、不味いでもなく、ガツガツと皿が空になる。

「まったく、てめぇはどんだけ経っても、感想のひとつも言えるようにならねぇなあ。」

隣の席に腰かけて、緑の髪に手を伸ばす。

「なんだ。」

「ん?伸びたな。明日切ってやるな?」

軽く手を振り払って、また目の前の料理に没頭する。

 

 

その夜、何度も体内で精を放ち、崩れるように眠り込んだ愛しい男に毛布をかける。

「機嫌悪ぃでやんの。ただいまの一言位言えってんだ。」

髪を撫でようとして伸ばした手を握りこむ。

頭をよぎる噂話、一笑に付したというのに・・・

「おまえ、何を隠してる?」

拭い切れない不安。

 

 

サンジが目を覚ますと、既にゾロは旅支度を整えていた。

「あ?なに、てめぇ、もう行くのか?」

「ああ。」

ゴトンゴトンと重いブーツの音が階段を降りていくのを聞きながら、サンジは慌てて服を身に着ける。

「なんなんだよ、くそっ。」

 

「おいっ!これ忘れてっぞ!」

玄関先で追いついた男に、この島を示すエターナルポースを差し出すが、苦い顔で取ろうとしない。

 

 

 

「もう、いらねえのか。」

「・・・」

「もう、帰らねえのか。」

「・・・」

「そ・・・か。」

蒼い瞳が揺れる。

 

「サンジ」

 

「そうか!じゃあな、大剣豪。」

青褪めた顔が笑顔を作る。

 

「また、いつか・・・」

 

「会わねーだろ。

 会わねーよ。昨日、今日 考えたってわけじゃねぇんだろ。もう・・・二度と会わねーよ。」

 

「サンジ」

 

「じゃあな。悪くねー恋だったぜ。」

 

踵を返した痩身は振り向くことはなかった。

玄関の中から一度だけ、カシャーンと小さなガラスが割れる音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

幾日も静まり返った暗い店に、いくつかの人影が足を踏み入れた。

「サンジくん!」

「サンジ、どこだ!」

「信じられないよ!サンジのキッチンで食べ物が腐ってる!」

「いた!」

「サンジくん!目を開けて!」

 

「ナミ、さ・・・」

ごめん、ナミさん、眠いんだ・・・少しだけ寝かして。

 

「サンジくん!サンジくん!」

うん、もう少ししたら起きるから。

 

「サンジくん!死ぬ気なの!?」

死ぬ?まさか。なんで?眠いだけなんだよ。

 

 

「やっぱり、あの噂、ホントだったんだ。ゾロが、ゾロが後継者を・・・」

うるせーよ、鼻。もうおれとマリモは関係ねぇ。

 

 

「サンジ!起きろ!メシ作ってくれよ!」「目を開けろぉ、サンジィ!」

ちょっと待ってろよ。たまにはおれだってゆっくり寝ても良いだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心地よい揺れに目を覚ます。あぁ、海に戻ってきたんだ。

・・・海?

ガバッと身を起こすと、ぐらりと目が回る。

 

ここは・・・サニー号か。何があったっけ?

 

「・・・いいから!戻ってきなさい!

 ・・・はぁ?間違い?・・・合わす顔がないなら、土下座してでも赦しを請いなさいよ!

 ・・・一人で平気な人間がどうしてこんなことになるのよ!バカじゃないの!

 い~い?すぐ来なかったら、あんたとは縁切るわよ?今までの借金耳揃えて返して貰いますからね?

 とにかく・・・」

 

あぁ、ナミさんの元気な声を聴いてると、こっちまで元気になるなぁ。

 

「サンジ!目ぇ覚めたのか!よ゛がっだぁ~」

「チョッパー」

すげぇカッコだな。重病人でもいんのかよ?

「え!?サンジくん気が付いたの?」

「ナミさん・・・おれ・・・」

 

あの時から初めておれは泣いた。

 

 

fin


突然、浮かんで離れてくれなくなった「サンジくんの元を去るゾロ」です。

自分の中から出しちゃわなきゃ、他のお話が考えられなくて、でも、どうしてもバッドエンドはUPしたくなくて、こうなりました。

色々説明不足ですが、想像してください・・・(逃)