ゾロは苛々と部屋のドアを見つめていた。
サンジが来ない。
昨夜は待っているうちに寝てしまった。
今日はこっちから行ってみるか。作業が終わらないうちに行っても邪険にされるだけだが・・・
空になった酒瓶を手に階下へ降りる。
作業中かどうか、確認したっていいだろう、酒も取って来れる。
ラウンジにはまだ灯りがついており、ゾロの頬が緩む。
近づくと、山で採った木の実や、たくさんのノートが積み上がったテーブルの前で
サンジは突っ伏して眠っていた。
「これは、予想外だったな」
さらりと髪を撫でる。
自室に連れ帰るのが一番手っ取り早い。
しかし、ナミが部屋替えを申し渡したほど、明け方は冷えるのだ。
ラウンジと客室二部屋の暖炉を整備し、ナミとロビン、サンジとウソップ寒がり四人はその部屋に移ったのだった。
冷たくなった腕をさする。
(おれの部屋じゃ寒ぃか。)
サンジの体を横にして、毛布をかけてやる。
うっすらと眼を開けたサンジに「いい、寝てろ」と言うと、安心したように眠りについた。
ラウンジの暖炉に火をいれ、サンジの寝顔を見つめる。
一晩中、薪を調整しながら金髪を梳く剣士は、とても穏やかな表情をしていた。
明るい日差しが窓から差し込み、サンジが目を覚ます。
テーブルにはレシピや木の実。暖炉にはまだほんのり火が入っている。
(これ、片付けたらおまえんとこ行くつもりだったんだけどな。)
その前で眠り込むゾロに手を伸ばす。
頬を撫で、口接ける。
「おれを呼びに来たんなら、起こしていいのによ」
サンジの肩から滑り落ちた毛布でゾロをくるむ。
口角の上がった唇にタバコをパクンとくわえるとピコピコと上下させながら、キッチンへ向かった。
その日のアルバイトは比較的近い家だった。ランチを用意するという家人の申し出を断って、ホテルへ戻る。
「あぁ~、疲れた。昼メシ何かなぁ。」
「肉だ、肉!」
「何でも美味いんだから良いじゃねぇか~。」
城にたどり着くと、門前でレッスンの終わった生徒たちを送り出すサンジと出くわした。
「おう!おかえり。お疲れさん!」
「おまえもな。」
サンジとゾロの視線が絡む。
「サンジ先生!長々とすみません~」
「じゃぁ、失礼しま~す」
「また次、楽しみにしてます~」
サンジのメロリン自粛は今日も続いているようで、こちらこそ楽しかった、ありがとうと丁寧に返す様子はまるでホストのようだった。
何度も振り返る後ろ姿に、いつまでも手を振るサンジをウソップが小突く。
「おまえ、そうやってればモテるんじゃねーのー?」
「はぁ?生徒さんに対してモテるとかはねーよ!」
それをうっとりと見つめる姿がひとつ。
視線を辿ったゾロと目があった夫人は頬を染め、室内に走り去った。