ひとまず、と案内されたラウンジを見渡すと、所々不自然に調度品が無くなっている。
対になっているはずの片方だけの置物やガラーンと空いた壁、しかも壁の色が四角く抜けているとなると、タペストリーか絵が最近まで掛かっていたのは一目瞭然だ。
片手を伸ばす騎士の像の隣には見つめ返す姫君の像があったのだろう、空っぽの空間をロビンが撫でる。
「これはお売りになったの?」
悲痛な顔で奥方が頷く。
「揃いの方が高く売れたでしょうに。」
「両方を手放す気には、どうしてもなれなくて。」
なぜ、こんな所に住んでいる夫人が困窮しているのか。
「失礼だけど、ワケを聞かせてくださる?」
夫人は没落して久しいが領主の末裔だと言う。
父の代で受け継いだ城を改築し、古城ホテルへと変貌を遂げた。
代々商才の無かった家系で、初めての成功だった。
若くしてその父が亡くなった後も、婿に迎えていたコックの奮闘で更なる評判を呼んだ。
テイクアウト商品も意欲的に作り、近隣の島にまでその販路は広がっていた。
相乗効果で料理目当ての宿泊客が訪れるようになった。
娘も生まれ、順風満帆の幸せな家庭だった。
三年前まで。
打ち合わせに訪ねて行った島からの帰り道、海賊に襲われたのだ。
タガーの名手で、常々戦うコックさん、と豪語していた彼も果敢に闘った。
遠距離戦の戦闘スタイルで危険は無いと思われた。
なのに、一発の銃弾が彼を貫いていた。
一変した生活。
もちろん、新たにコックを雇い入れた。
しかし、夫の味に適うことはなく、料理自慢の宿の料理の味が落ちては客足は遠のく一方だった。
とうとう、コックを雇い続けておくことができなくなった。
悪循環の完成である。
お嬢様育ちの夫人は蓄えを減らす術しか持っていなかった。
ナミがサンジを見つめる。
ナミの視線を避けるように、夫人がキッチンに立ったのを手伝いに行った。
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