「縛って刀で脅して、犯した。」
勢い良く部屋に入ったものの、「おれが口出しすることじゃねぇかもしんねーけど・・・」と口ごもるウソップを遮って、ゾロが叩きつけた言葉だった。
ッダンッ!
「なんで!」
掴み掛かったウソップの勢いを削ぎもせず、背後のドアに叩きつけられる。
「おまえらは、そういうんじゃねーだろーが!」
服を掴まれ、揺さぶられながら、その姿を見下ろす。
激昂している、なのに手を上げようとはしない。
誰が相手でも簡単に攻撃しない優しい狙撃手。
対して自分は、誰より大切に想っている相手を暴行した。
目頭が熱くなる。
「すまん」
「おれに言うこっちゃねーだろ・・・」
ソファーに場所を移し、おもむろにウソップが口を開いた。
「おれと夫人のこと、聞いてんだろ?」
「あぁ」
「夫人が最初はサンジを、なんつーのかな、気にかけてたのは?」
「知らねー、いや、そうじゃないかとは思ってたんだが・・・」
「だろうな。あいつが誘導したんだよ。自分に惹かれてるのをうまーく。あの女好きがさ、おれにはゾロがいるから応えらんねぇって、言ったんだぞ?」
「そ、うか…」
夫人がサンジに近づくとウソップを話の輪に入れる。ウソップを褒めるような話題を出す。そんなことが続くうちに夫人の視線がウソップに向けられるようになり…。
戸惑ったウソップにサンジは突拍子もない話を始めた。
『どう考えたって、おれよりマリモの方が早く死ぬだろ?おれぁ、あいつの死に水とるって決めてんだ。』
『縁起でもねぇこと言ってんじゃねぇよ。だいたい、そう簡単に死ぬようなタマじゃねぇだろ、2人とも。化けもんじみてっくせによぉ。』
『ははっ。…あいつが死んだら、おれはおキレイなお姉さまと人生やり直すんだ。その予定なんだけどさ・・・・・・。』
『あ?』
『あいつに似てる人間を探しちゃ惚れそうな気がしてな。
さすがに三本刀はいねぇだろうがよ、剣だこのある手だとか、声だとか・・・・・
なぁ。マダムがさ、死んだ夫の面影をそこいらの人間に探す気持ちがわかるんだよ。』
『おれだって男だし、あんな目で見られりゃ、その…惹かれないわけねーだろ。けど、来月にゃ この島出るのに、まずいだろ。』
『夫の、恋人の影を他人に求めるのは不実なことか?それをよすがにして恋人を思い出すのは、手伝えねぇ?』
ウソップの語るサンジの姿は、ゾロには見たことも無いものだった。
そんなことを考えていたのか、とやるせない気持ちになる。自分は何を不安になっていたのか。
「おまえは何が不満なんだよ。
こんなに想われてのに、なんでそんなことすんだよ!」
「ホントにな。・・・コックんとこ行ってくる。」
「おぅ!がんばれ。」
サンジの部屋をノックしても、返事がない。そのとき背後からチョッパーが現れた。
「サンジ寝てるはずだぞ。」
すたすたと室内に入ると、枕元にいつも軟膏を入れる瓶を置く。
そんなに近づかれても目を覚まさないサンジを遠く、入口から見つめる。
「な、ゾロ。寝てるだろ?行こう。」
「あぁ、いや。おれはここにいる。」
ジッとチョッパーがゾロを見上げた。
「サンジの怪我、おまえだろ。2人にして平気なのか?」
上の空でサンジを見つめていたゾロが、ギョッとしてチョッパーを見返す。
「もう、絶対ぇ あんな怪我はさせねぇから、平気だ。頼む。」
「うん!サンジを頼むぞ!」