コーリング 13

いつの間にかたどり着いた酒場で酒を煽る。

 

旨くない。

立て続けのアルバイトのおかげで豊かな懐を思い浮かべ、少し良い酒に変えても同じだ。

 

宿に残してきた、サンジが用意した酒とつまみが頭をよぎる。

あれは美味そうだった。

そう言ったら、美味そうじゃなくて、美味いんだ、なんたってこのジェントルコックが作ってんだからな!と、胸を反らすだろうサンジの姿まで浮かび、頭を振る。

 

美味くもなく、酔わせてくれるわけでもない、ただ強いだけの酒を次々と空にしていくと、さすがに思考力が鈍っていく。

 

そのどんよりとした頭の中に、再びサンジの声が響き苦笑する。

 

『ゾロ!』

 

たまにこうして呼ばれた気がすることがある。

そんなとき、いつだって遠くない場所にサンジがいる。

捕まえて、呼んだか?と問うと必ず否定するけれど、後でこっそりと、本当はてめぇのこと考えてたんだって、秘密を教える子どもみてぇな顔で笑うんだ。いつだって。

 

 

 

今のは?

 

 

今のは、本当に気のせいか?

 

 

 

酒場を飛び出し、サンジの気配を探る。

向かった先にはメリー号が碇泊していた。

 

キッチンの扉に手をかけたとき、そのときは確かにサンジに会うことしか考えていなかった。

それ以上を考えて追ったわけではなかったというのに。

 

 

 

 

 

グラスと手で隠れた薄桃色に染まった頬。

嚥下する喉仏か艶めかしい。

長い前髪の中で、視線が扉に向いた。

ひどくゆっくりと濡れたグラスがシンクに置かれた。

 

「なにしてんだ、酔っ払いマリモ。ホテルに帰れなくなったのか?」

 

殊更赤い目許が開き青い瞳が不敵に笑う。

 

「てめぇは人を悩ませて、ほろ酔い気分か。良いご身分だな、ええ?」

 

「飲んでんのは、お互い様だろうが!てめぇに文句言われる筋合いはねぇ!」

 

「おれが酒場で飲むのと、てめぇが女の家で飲むのじゃ話しが違ぇだろうが!なぁにが信用しろだ!

あげくは、あんな声で呼びやがって、何があったか包み隠さず言えんのか!!」

 

「言えるぜ。でも、そんな必要ねぇだろ。おれが何言ったって、おめぇに信じる気が無いじゃねーか。」

 

これは買っていいケンカじゃない、そう警鐘が鳴り響くのに、止めることができなかった。

火に油を注ぐように、ゾロを逆上させる言葉ばかりが、滑らかに口からこぼれ出る。

 

「だれが、てめぇなんぞ、呼ぶかってんだ。」

 

ゾロの拳骨がサンジの頭に炸裂した。

 

いつものケンカなら、絶対狙わない場所。

 

こめかみの少し上に狙い通りの衝撃が走り、脳髄が揺れる。反射的に繰り出した脚はゾロの鳩尾に埋まり、次の瞬間筋肉質な躯を壁までふっ飛ばした。

 

鳩尾を押さえたゾロが立ち上がったとき、

サンジは途切れそうになる意識をつなぎ止めるのがやっと、だった。

 

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