新世界に入り、上陸=騒動の連続だった麦わらの一味に、パタリと静かな航海が訪れた。
それは勿論、次の目的地への途中という狭間であるのだが、あまりにも唐突に訪れた平穏に、なにかの罠じゃないかとナミなど疑心暗鬼になる始末。
「ナミすわん! あなたのナイトをお忘れなく! 安心してくだっさ〜い♪」
「サンジくん…頼りにしてるわよ〜!」
「はぁいっ! 恐がるナミさんも可憐でステキだぁぁぁ!」
(けっ、アホが。)
ゾロが錘を振り下ろしながら、そんな光景を目の端に捉えていた。旅の始めから繰り広げられてきたこの光景が、たまらなく癪に障り、イヤミのひとつも言わなきゃ治まらない頃もあった。
だが、今ではバカバカしいとは思っても、もっと広い心で見ていられる。
(どんだけ女に媚びてようが、アレはおれのだ。)
ブンブンと素振りを続けながら、頬が緩むのが止まらない。
(ダメだな、これじゃ。集中できねえ。)
諦めて、錘をボスッと芝生に降ろしたとき、片手に銀のトレイを載せたサンジが顔を出した。
「珍しいな、こっちでやってんの。」
「おう、フランキーに展望台のソファ直すって追い出された。」
「へえ。ソファ壊れてたっけか?」
「クッションがヘタってるってよ。」
「おお、そりゃイイねえ。ふっかふかにしてくれって言ってこようかな。あと、床も全部鉄じゃなくてもいいよなぁ。」
サンジが差し出したグラスを煽りながら、ゾロはアホだなぁと再び思った。
「んで? 理由聞かれたらどうすんだよ。正直に答えっか? フランキーのこった、ボタン押したらダブルベッドが出てくるようにしてくれるかもなぁ。」
きょとん、とゾロを見つめた数秒後、サンジはボボボッと発火したように赤面して、吃りながら後ずさった。
「ば、ばか! そんなこと言わねえよ、恥知らず!」
(…恥知らずって…またオボコいことを…)
「くっ、はっはっは、あーっはっはっは―。」
笑い転げるゾロをサンジが高々と蹴飛ばすのは当たり前の流れで、珍しいゾロの大きな笑い声に、ポカンと遠巻きに見ていた仲間の視線もいつも通りのオチを目にし、元に戻っていった。