身一つだったサンジの身の回り品を買い足しながら新居へ引っ越しの準備をした。
その中で何かを欲しいという素振りも見せなかったサンジが、唯一興味を示したのが、おれが捨てようとしていた教科書やノートの教材一式だった。
小学校すら途中までしか行けなかったサンジに中学の教科書は難しい。
最初はひとつひとつ手を取るように教えてやった。
受験が終わってヤレヤレというときに、また一から勉強するなんてウンザリだけど、子供みてえなキラキラした目でせがまれたら、こっちまで楽しくなっちまう。
それに、 テレビを見ていたり、ふとしたときに、「これ、こないだの話だよな?」なんて聞いてくることが度々あって、 受験のためにただ詰め込んだ勉強が生活に生きていると教えてくれる。
こいつと同級生だったら良かったのに。
一緒に机を並べていたかった。そう言ったら、「ばーか、学年違うだろ。」って笑うけど、おれより幼い顔してるくせになぁ。
しばらくしたら、教科書の無いところをおれが補足する必要なんてなくなって、おれが学校行ってる間にぐんぐん教科書をこなしていっちまった。
サンジが一番気に入ったのは、意外なことに古文だった。
「きれいな言葉だよなぁ。なにげに色っぽいし。」
「そうかぁ?何言ってんのか、全然わかんねーじゃねーか。5段活用とかめんどくせー!」
「そういうテクじゃなく、音を楽しめよ。
……恋しとよ 君恋しとよ ゆかしとよ」
顔をあげると、サンジの蒼い目におれが写っている。
「……逢はばや 見ばや…」
白い頬に指を沿わすと、うっとりと目を閉じた。
「…見ばや…見えばや…」
「なぁ、キスしてえ。」
「…だめだ。
もっと、もっとおれを知って、それでも欲しかったら…全部やるよ。」
「欲しいに決まってんだろ!」
「どうだかな。おまえウソツキだもん。」
心外だった、バカがつくほど約束にこだわると言われているのに。
「嘘なんかつかねーよ。」
「こないだ二回キスしたくせに。」
「あー……くそ。」
「ふふん。今はこんだけ、な。」
おでこにひやっとした手があてられたかと思うと、チュッと軽い音がする。
「子供だましかよ。」
「まだ子供だろ。中学生?」
それもあと数日、いつか絶対全部手に入れてやる、とおれは決意を新たにしたのだった。
fin
AMOうさぎちゃんの誕生日プレゼントに、何がいいかなーと考えたらラプンツェルの続きしか浮かびませんでした。知り合ったばかりの頃、ほかのお話は全部読んだけど、警告を読んでラプンツェルは飛ばしたと言ってくれていたうさぎちゃん、他のフォロワーさんが大丈夫だよ、と勧めてくれたのを切欠に思い切って読んでくれて、すごく嬉しい感想をもらいました。もう一年以上前になりますね(´∀`*) これからもよろしくの思いを込めて、穏やかな生活を得たサンジくんを捧げます。