家につくなり、お袋は「うち戸籍余ってるの、どうかしら?」と言い出した。
失踪し、死亡扱いになっている父親がみつかったことにして戸籍を復活させるというのだ。
「そんなことして本当にご主人が戻られたら・・・」
とコックは躊躇っていたが、そのときはそのときよ、とお袋に軽くいなされる。
「私の夫ということになるけれど」
の言葉にはおれが猛反発する。
「ダメだ!コックはおれんだ!」
「ゾロ。まず配偶者は所有物じゃないわ。
そして、日本で同性婚はまだ認められてないから、
あなた達が相思相愛になったとしても親子関係になるしかないのよ。」
話し終えたとばかりに微笑むお袋に、サンジが小さく「え、そこ?」と呟いた。
慣れろ、
ズレたお袋に同性愛への偏見とか、そういう真っ当なことを期待しても疲れるぞ。
コックの突っ込みを更に誤解したお袋は言った。
「安心して。
あなたが望むときに離婚するから。
元々別姓だし、普段も既婚者の振りとかしなくていいのよ。」
何事かを話そうとしたコックを制し、お袋が話を続ける。
「待って。デメリットまで聞いてちょうだい。」
「デメリット?」
「そう。実は私もお願いがあるのよ。」
コックの顔つきがすぅっと無表情になる。
「この子の受験した学校・・・あら?そういえば、結果は?」
どんな話になるか、と身構えていたおれとコックはまるでテレビのようにずっこけた。
顔を見合わせ吹き出す。
まったく、マイペースな母親だ。
「受かったよ、それで?」
「そう、良かったわ。
あなたの入るはずだった寮なんだけどね、耐震性に問題があって工事するんですって。」
「はぁ!?」
「でも、目の前ホテルだし、
工事の間位ホテル住まいでも良いかと思ってたんだけど・・・」
「いや、通う校舎はあそこじゃねぇぞ。」
「そうなのよね、私、知らなくて。」
いや、知っとけよ。
受験は都内の本校で行うが、
スポーツ専攻の校舎は広いグラウンド等を備えるためベッドタウンにあるのだ。
・・・受験終わるまで気づいてなかったのかよ。
「飛行機で書類見てて気づいたのよ。
空港で問い合わせたんだけど、下宿もどこもいっぱいなんですって。
でも、新興住宅地だからマンションはありそうなの。」
お袋がコックを見る。
「そういう訳で、この子の世話をしてもらえないかしら?
もちろんお給料はお支払いするし、
掃除や洗濯は一応できるから食事だけ。
外食でも良いんだけど、お店が無さそうなのよね。」
「それがデメリット?」
「そう。」
「あなたは?」
「私は念願のアステカ調査隊に加われたので3月には行っちゃうの。」
「一人じゃ宿なし文無しで、身分証どころか戸籍も無しじゃ、
職も探せねーおれにそれを全部くれるって?
全然デメリットにならないじゃん。」
「そうなら嬉しいけれど?
ゾロが襲うかもしれないわ。」
だから!!
そういうこと言うなって!
コックがおれを見てニヤンと笑う。
「襲われても蹴り飛ばすし?」
真上に天井まで吹っ飛んだのを思い出す。
「襲わねーよ。」
「期間は、できれば三年間。
半年後の工事終わるまででも構わないわ。
どうかしら?」
コックの視線が目まぐるしく動く。
長い沈黙の後、ようやく口を開いた。
「ちょっとうますぎない?
なんで、そこまでしてくれようとするの?」
「田舎でのあなたを知ってるの。
あなたの次の子も。
その子のとき、お屋敷の男は児童虐待で捕まったのよ。知ってる?」
その男は村の大地主だった。
村中の人間が、なんらかの形で男に雇用されていた。
そいつの怒りに触れるのを恐れて、犯罪行為と知りつつ見ぬ振りをし続けていたのだと言う。
お袋が陰湿な陰口に悩まされたのも、
それを告発し、経営主が逮捕された腹いせのようだった。
「どうして、あなたのときに動けなかったのか・・・ずっと後悔してたわ。
今更、少々の手助けをしても、償いにはならないでしょう。
だから、単なる私の自己満足。
それに言った通り、うちも本当に困ってるのよ。
だから、あなたを利用したいの。」
「参ったな。
そんな風に言われたら、甘えたくなってしまう。」
そう答えるコックにおれが噛みつく。
「甘えじゃねぇだろ!
こっちが助けてくれっつってんだ。
なぁ、イヤじゃねぇんだろ?」
困ったように眉根を寄せながら、じっとコックがおれを見る。
「イヤじゃ・・・ねぇな。」
そして、お袋に振り向き、「半年?」と確認する。
お袋がうなずくのに、かぶせるようにおれは
「三年だ!」と叫んだ。
「半年で終わりになるか、三年になるか、それとも一生か、
それはあなた次第じゃなくて?」
と言われたおれは俄然燃えてきた。
「うっし。
絶対ぇ落としてやる!」
「おれを?」
ふわんと優しい顔で一瞬笑ったコックは、それをニヤンとした笑みに変える。
「おれはロビンちゃんみてぇなお美しいレディが好きなんだ。
おめぇみてぇなヤローの、しかもガキに落とされっかよ。」
「いーや、落とす。
絶対ぇだ、見てろよ!」
「へ!期待しねぇで見ててやるよ。」
「じゃぁ、明日手続きに行きましょう。
あなたはロロノア・サンジよ。覚えてね。」
あれから、随分経ったけど、コックはうちにいる。
おれが「ただいま」と帰ると、
短くなった金髪を揺らして白い男が振り返る。
「おう!
おけーり、マリモ小僧。」
ぞんざいな言葉と裏腹に、心底嬉しそうに笑うんだ。
fin
長いことお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
初リク、初パラレルと私にとっての記念品です。
見切り発車ではありましたが、非常に愛おしい二人となりました。
この二人との出会いをくださったrinco様に感謝しつつ、
こちらのサンジくんとゾロ坊やを捧げます。
一旦、終了となりますが、
また近いうちにゾロの高校生活のお話をしたいと思います。