いつもいっしょ

シモツキ二丁目保育園、月曜日の朝は賑やかだ。

いつもなら、保育士と二言、三言交わして子供を預けると、あたふたと出勤していく母親たちが、お昼寝布団のシーツを交換していくため、単純に滞在時間が長いのだ。皆、一様に必死の形相ではあるが、常ならすれ違ってしまう大人同士のわずかな交流でもあり、土日の事件や情報交換に花が咲くのも当然だった。

大人たちがまちまちに布団を広げている中を、子供たちがきゃーきゃーと歓声をあげながら追いかけっこを始める。布団のある大広間は、体育室でもあるので『走って良い場所』とインプットされているのだ。

 

そんな中、黙々と母親の手伝いをする小さな金色頭があった。

「ちびなす!」

ヒョコリと大広間を覗いたゾロが声をかける。

「ジョロ!」

スタッと立ち上がったものの振り返るサンジに、母親はいってらっしゃいと優しく声をかけ、上掛けのカバーを付け始めた。

 

タタタッと走り寄ったサンジがそのままの勢いでドーンと抱きつくが、ゾロはビクともしない。

これがまず、一番のお気に入りポイント。

(とうさんだってヨロッてなるのに、ゾロはすごい!ジィジみたいだ!!)

「おう、ちびなす。昨日は誕生日会来てくれてありがとな。」

「あたりまえだ!でも、ちびなしゅって言うな!ちゃんとシャンジって言え!」

「おまえがゾロって言えたらな。」

ムスッと口を尖らすサンジ。

クラスが違うことに次いで、ゾロのイヤなところはここだった。

頭の中ではちゃんとゾロって呼んでるのに、サンジの舌はまだサシスセソが上手く言えないのだ。

(ゾロはずるい。言えるくせに名前で呼んでくれない。)

 

じゃれあう二人を他の保護者たちが微笑ましく見ていた。

「かっわいいわねー。目立つわ、ビタミンカラー。」

「目立つと言えばナミちゃんいるじゃない?」

「ああ、2歳だっけ?」

「そうかな?クラスはイチゴさんだけど、お誕生日きてるかも。」

この保育園、0歳クラスの呼び名がさくらんぼ、1歳はいちご、2歳はりんご、と粒が大きくなるかと思いきや、3歳からはバナナ、ぶどう、メロン、と単価が高くなっていく。

サンジはバナナさん、ゾロはメロンさんである。

 

大人たちの声は続く。

「こないだね、緑、黄色、オレンジでおままごとしてて、かぁわいかったぁー!」

「あはは!シャンクス園長が加わったら完璧ね。」

かしましい声をゾロにしがみつきながら、サンジはぶすくれる。

(おままごとじゃないもん。もっとこうしょうな、ぎんこうやさんごっこだもん。)

 

「おい、なす。おーい!」

「ほぇ!?なーに?」

「あのな、おれホントの誕生日今日なんだ。」

「え?きょうも?」

「昨日は、日曜日だったから誕生会しただけ。誕生日は今日なんだよ。」

「そうなんだ!へぇー」

「言ってくんねえの?」

一瞬キョトンと見上げたサンジだが、にぱっと笑った。ちょいちょいとゾロに手招きすると、内緒話みたいに口を手で隠し、ほっぺにチュッとした。

「おたんじょうび、おめでと。ジョロ。」

「おう。さんきゅ。」

少し屈んだまま、ゾロがぎゅーっとサンジを抱きしめると、大人たちから、「見て!かーわいい!」と新たな歓声が上がるのだった。

 

fin