「も、ムリ……ねみぃ」
空と海との境界線が赤とも青とも言えない不思議な色を纏った頃、サンジが音を上げた。
イキっぱなしに近い快感の連続は疲労も激しい。
珍しく事後のタバコも欲しがらない。
「イキすぎだろ、おまえ」
「誰がイカせてんだ、アホ……他人事みてえに」
クワッと目を剥いたのも束の間、語尾も弱いし、すぐに目蓋が落ちてくる。
「風呂いいのか?」
「いくない。けど、ムリ」
ブランケットを手繰り寄せて抱き枕よろしく抱きついたサンジの下肢は二人分の精液にまみれている。
見ていると再び催しそうで、ゾロはブランケットを引き剥がしてサンジの全身を覆った。
抱き枕を奪われ不服な唸り声をあげたサンジは、ゾロを代わりに引っ張り込む。
「なんだ?今日は」
「んー?」
にへらっと笑ってゾロに抱きつくサンジはまるで子供のように甘えている。
今宵、何度も口にした珍しい姿の最たるものだと思ったが、悪い気はしない、とゾロは丸い金色の後頭部を優しく撫でた。
「汽笛で、キスしたろ?
子供んとき、毎年暮れに両親がしててさ。てめえんとこは無かった?」
「おれんとこは、寺で鐘ついたな。大人も子供も並んで一個ずつ」
「へえ‥汽笛が鳴ってる間は恋人とか夫婦だけなんだよ。鳴り止んだら『Bonne Année!』っつって子供も隣の人もごちゃ混ぜでキスやらハグやらするんだけどさ」
「ぼんな…?」
「ボンナネー 良い年にしようね!って。へへ……」
サンジの眠たげな声が恥ずかしそうな笑いに変わる。
「夢っていうか、憧れてたんだよな~汽笛のキス――」
言い終わるや否や、スースーと寝息が聞こえ出す。
ゾロは満ち足りた気持ちで、サンジを見下ろした。
誰でも日常的に、小さな希望や夢は抱くはずなのに、あまり口にしない男なのだ。
ルフィの冒険したい、肉食いたい程じゃなくても、誰しもあれが食べたい、これが欲しい程度の小さな望みは常にあるものだろうに。
女に関することは言うが、それこそ口だけなことなど、ゾロが一番よく知っている。
そんな男が持っていた小さな夢を、今、自分が叶えたのだ。ゾロの中で愛しさが膨れ上がるのを感じていた。
イった数だけの酒――それを本当に用意させたら、明日からの分が無くなるだけだろうから、サンジが寝るなら、振る舞い酒を貰いに港に行ってくるかと思っていたのだが、この重みを手放す方が惜しい。
サンジが寝やすいように改めて抱き直して、ブランケットの上からその痩身をぽんぽんと叩いた。
一時間経ったら起こしてやろう、きっと風呂に入りたがる。
その後、一緒に港に戻っても良いかもしれない。
ゾロはこの穏やかな年明けを、これ以上ない優しい気持ちで迎えたのだった。
fin
書いてる途中で、WJでサンジの素性が出始めまして、港でキスする両親と一人っ子 って絵面を想像して作った話だったので、どうしようかなって思ったのですが、
1で汽笛のキスをしたくてゾロを探した理由って、これしか思いつかないし、ヴィンスモーク家がどんな家かまだわからないし・・・
というわけで、わからないうちに出しちゃえ!と思い切ってUPしました。
サンジの過去がわかるのは嬉しいけど、好き勝手に妄想できるのはそろそろ最後ってことなんですね~