オニギリ

「随分お優しいこったな。好き嫌いは許さねーんじゃなかったのか。」

 

 キッチンのドアが開くと同時にマリモの声がする。

 今朝のメニューはサンドイッチ。だが、パンは嫌いだと言う男のためにおれはおにぎりを用意してやってるところだった。

 その男はトラファルガー・ロー、ハートの一味の船長にして七武海、なぜかおれ達の『同盟』相手だ。おれの精神をナミさんのお体に入れた張本人でもある。

「あいつぁ、客みてーなもんだろ。」

 こいつも米好きなのはもちろん分かってるが、子供みたいな言い分に苦笑が漏れる。そもそもこの米だって、ゾロの夜食の茶漬けの残りなのに。

 ガーキ と嘲笑を乗せて振り返ると、思った以上にムッとしていて驚いた。

 刻んでいた辛子高菜の手を止め、ちょいちょいと呼ぶと大きめな切れ端をその口にポイと入れてやる。

 

「なー、お前さ、二年離れてて気づかなかった?おれの呪い。」

 ちょっと緩んだ不機嫌な眉間のシワが、また怪訝に寄せられる。

「ナミさんはすぐに気づいてくれたのになぁ。『サンジくんのご飯じゃないと体がたるんじゃって~、毎日腹筋200もしてたのよ』なんつってよぉ~。頑張り屋さんだよな~、あのナイスボディも努力の賜物と思うとますます輝いて見えるよなぁ~。」

ナミさんの真似は我ながら似てたと思うのに眉ひとつ動かさねえとは、つまんねーやつ。

「長っ鼻だって、『おれ、もう盗み食いしねーよぉぉ。サンジが作ってくれたメシなら腹いっぱい食ってもあんなことにはなんねーのに、体が重くて走れないなんて、苦しいんだなぁ!』ってよ。おれ様が用意した食事のありがたみを思い知ったってよ。」

 

くそ、と小さな声がおれの肩口でする。

「朝起きても、酒が残ってるとか」

「おう、そんなことがあったか。」

「血流し過ぎた翌日、クラクラしたり」

「ばっか、そりゃ当たり前だ。」

腰に回された手にぎゅうぎゅうと力が加わる。

「ありゃ、全部てめぇのせいか。」

「そうだよ。おれが丹精込めて、てめぇらの体を作ってたんだ。体が持ってる力を最大限引き出してやってたのによ。」

粗末にして、痛めつけて、無理やり強くなったんだろう?これからはもっと効率よく強くなれる体に作り変えてやるからな。

「んで?」

出来上がったおにぎりを皿に並べる。サンドイッチの具の残りを使ったツナマヨ、常備品の辛子高菜、梅干しだ。ゾロの目がそちらに向かう。ホント好きなんだよな、おにぎり。

「おれが栄養バランスを考えて作ったサンドイッチと、残り物のおにぎり。どっちも美味いぜ?一流コックが作ってんだからな。」

どっちが食いたい?と首をかしげると、ゾロは苦渋の表情でサンドイッチと答えた。

「お利口さん、ご褒美だ。」

こっそり握った小さなおにぎりを口に入れてやると破顔するかわいいケモノ。思わずよしよし、と頭を撫でてしまった。

小さなおにぎりは一口でゾロの中に消えた。未練たらしく、おにぎりを摘まんでいた指をぴちゃぴちゃと舐められる。塩すらついてないだろう指の股まで舐められて朝だっていうのに息が上がる。

「もっと、ご褒美よこせよ。」

「あーん? 何甘えてんだ。気持ち悪ぃ。」

なんて嘯いても、掴まれた手を引く気も無ければ、顔がにやけるのを隠す気も無いから、当然、ゾロにはバレバレで。

「じゃ、おれがお礼をやるよ。」

 頭の中ではやるこたぁ同じだろ、と突っこんでいるんだが、おれは唇を開いてゾロのキスを受け止めた。 

    

Fin

 



2013年春コミのときに作ったペーパーです(多分)