One for all,All for one

肉狩りの戦利品の始末はサンジとゾロ二人がかりでの作業となった。

堅くて分厚い表皮を纏った恐竜並みのトカゲ2頭に

もぐり込むような解体作業を終えた二人は全身血まみれだった。

 

積み上がった樽詰めの肉と二人の姿を見てナミが声をかける。

 

「それ運んどくから、流してらっしゃいよ。」

 

「えぇ~!いいよ、いいよ。この馬鹿力に運ばせるから!」

 

「いいから!そんな恰好で船の上歩かないでちょうだい!」

そこまで言われて、二人は互いの姿を見やる。

 

「すげーな、てめぇ。紅葉してやがる。」

 

「てめぇこそ!」

 

「ナンだよ。」

 

「いや、色っぽい。」

 

てっきりカラーヒヨコになっているかと思ったサンジは、

白い肌に血飛沫が散って壮絶な美しさだった。

 

「アホか!」

 

「誉めてんじゃねーか!」

 

「くだらねーこと言ってっとオロス!」

 

既に攻撃しながら怒鳴りつけるサンジに、ゾロが応戦しないわけもなく、

船上から制止の声とともに着替えとタオルが降ってくる。

 

「うるさーい!とっと行け!」

 

「早く帰って来てくれ~、ルフィ止めとけね~ぞ~」

 

「これも持って行ってくださーい!」

ビビが投げたのは救急箱だった。

 

海水が混ざった河口から少し遡り、真水になった辺りで勢い良く飛び込む。

熱帯の島だが、川の水は冷たく心地よかった。

半分遊びながら服を脱ぎ、洗濯をし、体を洗ったというのに、

いつまでも血の臭いがとれないゾロにサンジが近づく。

 

「ちゃんと落ちてねーだろ。ほら、ここだ。」  

 

耳の後ろをこするがなかなかとれない汚れに、頭ごと水につけ、ゴシゴシ擦る。

突然の行動に息をためてなかったゾロが息苦しさから暴れても、気にしない。

 

「ほら、動くなって。」

 

サンジが声をかけたとき、ガバッとゾロが頭を上げる。

 

「殺す気か!アホ眉毛!」

 

「えー 死なねーだろ、これっくらいで。なんだよ、湖に棲息してるくせに。」

 

ぐしゃぐしゃと緑髪をかき混ぜ、満足げに頷く。

 

「よし、きれいになった。」

 

そのとき、水面を流れて行く血の筋が目に入った。

ぽちゃんと川に潜ると血流の元を見つける。

ざっくりと切れた両足首は、いまだにドクドクと命の源を吹き出していた。

 

「いつ、やられた。おれの手伝いの前に治療だろうがよ。」

 

ビビが救急箱を寄越した意味に気づいたサンジは、河辺に招き、座るよう促す。

 

「あ?やられてねーよ。自分で切ったんだ。」

 

ことの経緯を平然と喋りながら、止血剤を取り出し傷口に吹き付けた。

 

「なんで、そんなことすんだよ。」

 

ふと顔を上げると、サンジこそ失血してるんじゃないか、というほど蒼白な顔になっていて、

はたと気づいたのだった。

サンジにとって、

誰かの「ために」

自ら「足を」「切り落とす」のが、

とんでもないトラウマだということに。

 

しまった、隠しようはあっただろうに。

ナミが治療もしないで解体するのを止めなかったのも、こいつを気遣ってのことか、と。

 

だが、言ってしまったものは仕方がないし、あの行動自体を反省する気はない。

 

「それしか無かったんだ。」

 

「両脚無くしたら、大剣豪になれねーじゃねぇか。」

 

「なるぜ。でもあそこで死んでたら、なれねーだろ。

 ナミとビビもいたしよ。

 足の先っぽより、野望と仲間の方が重てーだろうが。」

 

足の先っぽって・・・爪先みたいに言うな。

足が無いと立てないんだぞ。

大体、人間は出血多量でも死ぬんだぞ。

 

あぁ、バカだ。こいつ。

 

バカだから仕方ないか。

 

口を開けば言葉より嗚咽が漏れそうで、ギリッと唇を噛み締める。

 

 

足より大事なのか。

 

 

初対面のガキが。

 

 

自分に斬り掛かったガキが。

 

 

同じ夢を見ているクソガキが。

 

 

自分の脚より重いと思ったのか。

 

 

霞む視界をぐいっと拭うと、足の前側はなんとか縫い、

脇側に近づくにつれガタガタになっている縫い目を見やる。

 

「下手くそ。貸せ。」

 

「いい。自分でやる。」

 

「へー。刀は知ってっけど、針も両利き?

 メシは右で食ってるよな。

 それにしたってふくらはぎ側は届かねーだろ。」

 

先ほどの沈黙を払拭するかのように、滔々と喋るサンジ。

ゾロにしても、見たくないだろう、と思っただけでやってくれるなら

それにこしたことはない。なにしろ器用さは折り紙付きだ。

足から糸が繋がっている針を渡す。

 

「こんな中まで斬りやがって」

 

ブツブツ言いながら、消毒液を吹きかけ、サクサクと縫っていく。

手早い割に丁寧な縫合は、自分でやっていたときより痛みが少ない。

縫い終わったサンジは最後にくるくると包帯を巻く。

 

「二度目だな。」

 

「ん?」

 

「てめぇの包帯巻くの。」

 

ゾロは全治二年と言われた傷だと言うのに、ろくに包帯を変えず、

風呂の後まで濡れたまま横になっているのを見かねて、

サンジが包帯を変え、ウソップが洗うのが傷口が塞がるまでの日課だったのだ。

 

「無茶ばっかしやがって。

 ケガすんのは仕方ねーし、お互い様だ。

 けどよ、てめぇは仲間を守りたかったんだろ?

 おれらだって、てめぇを守りたいって、いい加減わかれよ。」

 

これだけは言っておかねば。

なにしろ筋金入りのバカなんだから、と意を決してサンジが諭す。

 

確かにゾロは戦闘員だ。

しかし、庇護者ではない。

先ほどまで、あの行動は最善で、他に取れる道は無かったと思っていたゾロが、初めて反省した。

 

「おれは同じ森にいたんだぜ。てめぇのデカい声で呼ばれりゃ気づいたかもしんねーだろ。」

 

ゾロの脚を膝に乗せたまま話すサンジを抱き寄せる。

勢いで落ちた脚が痺れるほど痛かったが構ってられなかった。

 

「悪かった。次からそうする。

 早く来ねーと、斬るからな、てめぇも急げよ?」

 

「おう。愛情込めて呼べよ。そしたら絶対ぇ気づいてやる。」

 

笑わせたくて乗せた言葉に思わぬ反論を受け、ゾロが赤面する。

 

「どうした、また紅葉してっぞ?」

 

「ばか言ってやがる。」

 

「先に言ったのはてめぇだ、ばーか。」

 

楽しい雰囲気を取り戻した二人は互いに蹴り、殴り合いながら、船への道を辿る。

 

「てめぇ、今日はレバー尽くしだぞぉっ!」

 

「そりゃ、楽しみだ!」

 

fin 


rinco様 大変お待たせいたしました。

ゾロの傷を縫うサンジ(チョパ乗船前)とのリクエスト。お応えできましたでしょうか。

よかったら、この二人を貰ってやってください♪