穏やかな昼下がり、今日は珍しく船内が静かだ。
いつもなら、キャーキャーと響く年少組の喧騒がない。
ゾロが後甲板に鉄団子を置き、キッチンへ向かいながら甲板を見やると
ルフィがメリーの頭に座り、ウソップがその脇にウソップ工場を広げている。
走り回っていないだけで、いつもの光景だった。
キッチンの扉を開けると、チョッパーの歓声が上がった。
「わかった!サイコロだ!」
「せーかい」
こちらを見ることもせず、冷蔵庫を開けたサンジがゾロのスポーツドリンクを手にするのを見、
特に声をかける必要も感じず、椅子に座る。
大きめのグラスを目の前に差し出しながら、サンジがふわりと微笑む。
謝意を込めて見返しながら受け取ったグラスがカランと音を立てる。
「よーし、次な。
はくことはできるのに、脱ぐことはできないものなーんだ。
ヒントは日用品。」
なぞなぞか、また幼稚な・・・・と思いながら、聞いてしまうと考える。
「ゲロ」
とゾロが答えると、言い終わらないうちに後頭部にサンジの踵が突き刺さる。
「汚ぇ!日用品っつってんだろが!」
チョッパーは勃発したいつものケンカの脇で考え続ける。
「ズボン・・・パンツ・・・スカート・・・」
「わかった!ほうきだ!」
「せーかい!じゃな、それ持ってきてくれっか?」
「うん!取ってくるね~」
とっとっとっと走り去るチョッパーを見ながら、ゾロが問う。
「なんか変じゃねぇか?」
唇をなみなみにして、ピコピコと咥えたタバコを上下させながらサンジが答える。
「さっきな、ルフィがいじめるっつって泣きながら来たんだわ。」
「ルフィが?」
「ここんとこ、ちぃっとイライラしてっだろ?八つ当たりなんだろうな。」
イライラしている?ルフィが?気付かなかった・・・
ゾロが立ち上がるとすかさず、サンジが止める。
「てめぇは行くなよ?ウソップが行ったから大丈夫だ。」
不満げにサンジを見やるとニヤリと笑いながら続ける。
「親父まで出てこられちゃ、素直になれるもんもなれねぇっての。兄ちゃんに任しとけ。」
誰が親父だ。
「じゃ、お前は母ちゃんか。」
「すっげー不本意だが、親父の愛人よかマシか?」
そっちからの発想ではなかったのだが、髪を掻き上げながら嫣然と微笑む様にクラリとくる。
腰を引き寄せると、されるがままに近づき軽くキスをするくせに
「あーほ。末っ子が帰ってくるだろが。」
とペチンと額を叩いてくる。
憮然として再度腰かけながら話しかける。
「末っ子なぁ、15とか言ってなかったか?ありゃ随分幼稚だぞ?」
「人間に換算してって言ってただろ?
ありゃぁ、例えば20年が寿命の動物を80年が寿命の動物に換算すっと
10歳で寿命の半分だから40歳と同じですねってぇな考えなんだよ。
トナカイの寿命は知らねぇけど、歳=生きた年数じゃねぇんだな。
チョッパーの場合、ヒト化してからは1年で1歳だけど、それまでにチビの時代は済んでっだろ?
てめぇらがさ、幼いころにやってたことを今、取り戻してるんだ。教えてやれよ。」
目の前の物心ついた頃には、大人と一緒に働いていたヤツが言う。
「お前はどうやって覚えた。」
ひどく漠然とした問いだが、短くはない付き合いのサンジは正確に受止める。
「客船には親子連れも結構乗ってたからな。
なぞなぞも手遊び歌もやってたぞ。」
それは、お前の経験じゃないじゃないか、とか、
覚えるほど見てたのか、とか 色々過ぎって結局何も言えず、ムスッと押し黙る。
これまた正確に受止めてしまったサンジはククッと笑う。
「なぁ、おれさ。
やって欲しいことがあんだけど。」
「なんだ。」
「読み聞かせ?寝物語?なんてーの?
寝る前にさ、なんか昔話とか話してくれるやつ。」
「あぁ。えっ?」
ゾロとて、言いたいことはわかった。わかったが、自分がするのか?と思うと抵抗がある。
「なんだよ。してくんねーの?
なんかひとつ位覚えてんだろ?」
「わ、かった・・・」
頭を抱えて立ち上がる。
「おう!今晩な。じゃ、メシまでもうひと頑張りしてこーい。」
ゾロがキッチンを出ると、仲直りしたのだろうルフィとチョッパーがほうきとちり取りを持って
来るのとすれ違った。
後甲板に向かうが、桃太郎、金太郎、一寸法師・・・とどれも半端にしか思い出せない昔話の数々を考え、鍛練は諦め、ロビンを探すことにした。教えを請うために。
ゾロは思いがけずもうひと頑張りした。
ナミに笑われながら、昔話を聞き、
ロビンに復習しろ、と言われ、聞いた物語をぼそぼそと話した。
それでも、その後にお楽しみが待っていると信じてゾロは頑張った。
夜半、格納庫に行くと、こんなに早く来ることも出来るのか、と驚くほど早々とサンジが待っていた。
・・・チョッパーと一緒に。
fin