「おまえね、手伝わないのはともかく、邪魔すんなよ。」
洗い物をしているサンジの前髪をカウンターの向こうから持ち上げたり落としたり、はっきり言って鬱陶しい。
スツールを降りたゾロはキッチンに回り込み、サンジの背中を抱き締める。
「邪魔だっつうの。」
苦笑しながら顔だけ振り向き、頬に唇を落とすが、すぐに視線は手元の皿に戻される。
斜め前を向いてしまった頭に鼻先を突っ込む。
つるつるとした金髪が流れていくのを感じながら、地肌を撫でるように耳に辿り着く。
耳の後ろに舌を這わすと、ん、と喉の奥が鳴った。
微かに身じろぐ身体は、逃げる気も、突き放す気もないようで、そのまま作業は続けるが、少し力が抜け、背後のゾロに凭れかかった。
気をよくして慣れた手つきでプチンプチンとボタンを外していく。
「こら」
どうせ止まらないだろうと思いながらなおざりに声をかけると、「んー」と生返事が返される。
「やりすぎ。あと少しだから待て。割っちまう。」
皿洗いなんか放り出したくなるほど追い上げるのは簡単だし、ガキだった頃はそうしてきたが、片付けまでプライドを持って行っているのを尊重できる程度には大人になった。
掌でゆっくりと剥きだされた腹部を撫でるに留め、サンジの後ろ頭に鼻先を突っ込む。
「さっきの月」
「おお!すごかったな。」
「てめえの頭みたいだった。」
「は!?誰かの入れ知恵?」
「何が」
「いや、だって、てめぇがそんな定番の口説き文句を言えるようになるなんざ 思わねぇだろ。」
「そうか?いつもの月よりこの色に似てただろ。」
「あぁ、色ね、そう、か?」
努めて平静な声を出しているサンジの顔が真っ赤に染まっている。
「おお。太陽みてぇなギラギラしたんじゃねーし、いつもの月だと白っぽ過ぎるし。定番なのか?」
「そうだろ。まるで月のようだ、あの星より美しいってな。」
最後の一枚を濯ぎ終わり、蛇口をキュッと締める。
「ふーん。星は、あれだ。ナミがなんか言ってたろ。あれはてめぇだよな。」
ふと思い出したように嬉しげに同意を求める。
「おまえね、あれとなにかで伝わると思うなよ。」
「んー、なんか言ってたろ。麦と土星が並んでるってやつ。」
月が最も大きく見えるとき、その下にはおとめ座のスピカと土星が並ぶのだ。
スピカは乙女座を象る女神が手にした麦の穂である。
「あぁ、スピカか。乙女座の麦の穂、な。なんでおれだよ。」
「てめぇだろ。女にしっぽ掴まれて、食い物の象徴ってよ。位置も当たってるしな。」
「位置?」
ゾロの手がするっと尻を撫でる。
「ここのほくろ」
「は?おれ、そんなとこにほくろあんの?」
「なんだ、知らねーのか。そうか、普通見えねーか。」
ぐりぐりと一部を押す。
「この辺。尻っぺたの下っ側。ちょうど土星もあるしな。」
くいっとソコに指を挿す。
「あ!おまえ、ほんとバカな。・・・・なぁ、こっちは終わったぜ?」