カメレオン

 

ゴーイングメリー号にコックが乗り込んでから、格段に改善された食生活は

クルーに新しい習慣をもたらした。
午前のお茶、午後のおやつ、そして夕飯後の晩酌である。
お茶、おやつはコックが始めたものであるが、
晩酌は剣士が毎晩、酒だけを呑んでいるのを見かねたコックがつまみを用意してやり、
つまみに釣られた船長がたびたび加わるようになったのである。
今日も見張りのウソップを除いた男三人がご機嫌で杯を重ねていた。

つまみ(にしては大量)の皿もあらかた空になった頃、
ルフィがキッチンのコンロにかけられた2つの鍋をチラチラと見やる。
「こら、クソゴム。明日のカレーと鼻の差し入れだ。食うなよ。」
目ざとく動向に気づいたサンジが釘を指す。
「しっけいだなぁ、食わねぇよ~
 ただ、ちぃっ~と―」
「味見も不要だ。」
「け~ち、けちけちサンジ」
「んだ!こら!!」
サンジがルフィに掴みかかり、四の字固めを決めるが
「効かねーな~
 ゴムだから。
 イシシ」
とケロッとしている。
「よし、ゾロ!斬れ!!」
サンジは、隣で我関せずと呑み続けているゾロに命じる。
「一応船長だぞ、斬っちゃマズいだろ。」
「海賊のくせに常識ぶってんじゃねーよ。
 んじゃ、代われ。」
効き目の無い押さえ込みを交代し、サンジがキッチンに向かう。
何事か、とされるがままになっていたルフィが首を伸ばすが、させるか、とゾロが頭を抱え込む。
「よーし、よし、マリモ。
 グッジョブだ、そのまま押さえとけよ。」
サンジが振り返り、両手を背後にかくし、ニヤリと笑う。
「おめぇに効くのはコレだよな。」
とひらめかした片手にはソーセージの刺さったフォーク。
「ゾーロ。
 あっつあつのジューシーチョリソーだぜ~。」
と、ふーっと息を吹きかけてからゾロの口元に差し出す。
見慣れぬコックの優しげな様子に驚きながらも、ルフィへのあてつけに喜んで乗ることにする。
パクリと頬張り、「うめぇ」とゾロが口にした途端、呆然としていたルフィががむしゃらにもがき出す。
「ひでぇ!!
 サンジ、おれも!
 ゾロずりぃっ!」
サンジがさも楽しげに、もう片方の手を出した。
「おれも、いっただきまーす。」と口にフォークを運んだ途端、

有り得ないムニュッとした感触がサンジの唇をかすめ、フォークが空になった。
ルフィがカメレオンのように舌を伸ばして獲物をかすめ取ったのである。

「うっぎゃ~~~!
 気持ちわりぃ!
 てんめぇ!
 おれの前で今度それ、やりやがったら切り刻んでタンシチューにしてやっからな!」
「ん!わかった!」
「しっかも、舐めやがって
 チキショー!
 信じらんねー!!」
「それはワザとじゃねーぞ。
 めったにやんねーから照準が狂った。」
「ワザとやられて堪るかー!」
ゴシゴシとタオルで拭き清めたサンジの唇は翌日見事なタラコ唇に腫れ上がっていた。

 

fin


なんでもない日常を妄想するのが好き。
ルフィの舌って伸びるのかな、って想像から。
伸びるけど、サンジに禁止されてたら楽しい、と思って。

入らなかった会話
「おい、コック。
 口直ししてやろうか。」
「おめぇじゃ 更に口直しが必要だな。」

未満だった、と削除。

入らなかったメニュー
ウソップの夜食はナンカレードッグ。
明日用のカレーを少し取って、挽き肉を足してキーマにし、ナンにソーセージを挟んでかけるのだ。

モスバーガーのが好きで、うちでも微妙に残ったカレーでよくやります。

だからなんだ、という話。