すっかり習慣となったサンジのマッサージ中に、
白い指先がこげ茶色に染まっているのを見咎めたゾロが手首を掴み、尋ねる。
「なんだ?この指。」
「あー?あぁ、昨日の栗剥いたから。」
「ばっかみてぇにあったろ。」
「おぅ。」
昨日停泊した無人島は秋島で、食糧調達にバラけた面々が、
揃いも揃って栗ばかり集めてきたのだった。
「粒はちっこいけど、うめぇぞ。
明日は栗ご飯だ。おめぇ好きだろ。」
「あー、好きだ。」
「ちっと塩利かせっからな。」
「全部一人で剥いたのか?」
「おぅ。
だから、おやつもモンブランだぞ~。」
「そうじゃなくて・・・」
「栗きんとんにすっか?」
「ちげぇよ。
剥くのとか、手伝わせろよ。」
「へ?なんで。」
サンジは思わず、頭を持ち上げて背後のゾロを振り返る。
「レストランだったら、雑用いんだろ?」
「いねぇときもあったぜ。」
「おれらは客じゃねぇんだから、手伝わせりゃ良いんだよ。」
「いや、だって、おれの仕事だ。」
「そりゃ、おめぇにしか出来ねぇことが大部分なんだろーけどよ。
メシ食わせて貰ってるヤツらが手伝いすんのは当たり前ぇだろ。」
「そ、うか?」
「掃除だ、洗濯だってときには、てめぇ、躾だって言ってんじゃねぇか、おんなじだろが。」
こてんとタオルに頬をつけ、サンジがにんまり笑う。
家庭で食事をした記憶がないサンジには、調理はもちろん、配膳、後片付けまで、
食事する側が手伝うなんて思いもよらないことだった。
「そか。家じゃぁ手伝うもんなのか。
おめぇもお手伝いしてたわけ?」
「あぁ、飯炊き、風呂焚き、ジジィ、ババァのマッサージは子供の仕事だったな。」
「へぇ!飯炊けんのか!?」
「おれのは美味くねぇって、あまりやらされなかったけどな。」
「ははは!美味くねぇのか!緑になるんじゃねぇの?」
「なるか、あほ。」
ゾロはサンジの首を揉んでいた両手をこめかみに上げ、
握った人差し指の第二関節をグリグリと押し当てる。
「いででで。
まぁさ、かまどなんだろ?難しいさ。
そんで、不味いじゃなく、美味くねぇって言ってくれたんだろ?上出来じゃねぇか。」
「ふん。」
「いい村だな。」
「あぁ、てめぇも気に入るぞ。この旅終わったら来い。」
まるでプロポーズのような誘いだが、単なる話のついでのようにも見える。
サンジはサラッと流さなきゃ、と思うが体はポポポッと赤くなる。
朱に染まった顔をタオルに伏せ、隠す。
ニヤッと笑ったゾロが赤い首筋をツッと撫で、促す。
「おら、返事は?」
「くぅ―、場所わかんねーくせに。」
「うっせーな。ナミがいんだ、なんとかなんだろ!」
「結局ナミさん頼りかよ。
ったく、頼り無ぇ剣豪だなぁ!」
「いーから!返事!」
「しつけー!」
ゾロが後ろからサンジの頬をムニュとひっぱる。
「わかってるくせに、聞くなよ。」
「アホ、わかってっから聞きてぇんだろ。」
サンジが少し顔を傾け、ゾロを睨み付けるが、ゾロのにやにや笑いは止まらない。
サンジがガバッと体を返し、ゾロを引き寄せる。
唇を合わせる寸前に小さく呟く。
「大剣豪になったら、祝いに返事くれてやんよ。」
fin