Guilty Ⅱ1

 

デーバーバックファイトが終わり、疲れ果てたクルーたちが三々五々引き上げしばらく経った頃、

キッチンのドアが急に開いた。

「サンジくん!」

バタンと開いたドアから飛び込んで来たナミが、サンジにしがみついた。

 

「ナ、ナミさん!?」

サンジが抱き返して良いものか、オロオロと空中で手をさまよわせている。

 

晩酌中のゾロはポカンと二人を見つめ、

貰ったばかりの湯気を立てているつまみに手を伸ばすのも忘れていた。

 

二人の狼狽を気にもとめず、ナミがサンジの顔を見て言った。

「サンジくん、空で助けてくれてありがとう。」

 

「あれは・・・怒ってたんじゃねーの?」

「ウソップに聞いたわ。私、サンジくんがまた

 身代わりになって助けてくれたんだと思ってたの。違ったのね、ごめん!」

 

「ナミさ~ん

 君のためなら例え火の中、水の中!」

 

「はいはい」

一転して軽佻になったサンジをいなす。

「もう雷と雪崩はごめんだけどね。」

 

「そうだね。でも、おれは何からだって生きて帰るさ。」

 

「信用してるからね。」

 

「ナミさんを泣かせるようなこと、するわけないでしょー!!」

 

「はいはい、泣く泣く。

 おいしいご飯の無い船旅考えたら、いくらでも泣けちゃうわ。」

ヒラヒラと手を振り、お休み~とウィンク一つ残してナミが帰って行った。

 

残されたゾロは、止めていた晩酌を再開し、サンジも片付けを続ける。

 

身代わりじゃなかった・・・サンジの二度目の火傷を聞いてから数日、

ゾロの中で 膨れ上げっていたムカムカが晴れ渡った気がした。

詳細を知りたい、それ以上にこの男に触れたい。

そういえば、ここ何日も手を伸ばしていなかった。

 

「ごっそーさん。」

 

「おう、早ぇな。」

下げようと伸ばしたサンジの手をゾロが掴む。

 

「いいか?」

 

「ふん。 

 信用できねー野郎に急所晒さねー方が良いんじゃねぇの?」

 

「あれは・・・

 てめぇは目ぇ離すとすぐ死にかけやがるから・・・」

 

掴んだサンジの手を見つめながら、ゾロが口ごもる。

サンジが掴まれた手を振り払う。

「だから何だ?

 てめぇに言われたかねーな、お互い様だ。

 おれをベイビー扱いしてぇんか!?」

 

「そうじゃねぇ。

 てめぇの火傷の話を聞いて、お得意の自己犠牲かとムカついてたんだよ。 

 違ったんだな。」

 

払った手でゾロの襟刳りを掴み、一方の手で顎に一撃を喰らわす。

 

「違ったからなんだ! 

 おれが何考えてようが取った行動は変わらねぇぞ。 

 何をやろうとてめぇが口出すこっちゃ無ぇだろうが! 

 これがおれだ!」

 

思いがけない手の攻撃に一拍遅れたゾロだが、立ち上がって態勢を整える。

 

身構えながらもサンジが言い募る。

 

「腹ぁ括れっつったのはてめぇじゃねぇか。 

 おれは括ったぞ。 

 てめぇのデカブツ受け入れることだけじゃねぇ。 

 てめぇの信念も、野望も全部だ。 

 クルーとしての戦いなら、仲間だ。遠慮はしねぇ。 

 いくらでも手出すけどな、てめぇの信念の戦いなら! 

 例え、目の前で死にかけても、おりゃ手助けしねんだ。 

 てめぇはすぐ死にかけやがるから、そんなんまで想像して、おれは腹ぁ括ったんだ。 

 なのに、てめぇのその様ぁなんだよ。 

 てめぇ、その程度の覚悟でおれを口説きやがったのか!?」

 

「おれの覚悟が足りねぇってのか!」

「実際、足りてねーよな!!」

ギリギリと睨みあったまま間合いを詰める。

その時、サンジがふっと力を抜いた。

「おれに惚れたって言うんなら、生き様ごと受け入れろ。 

 それができねーんなら、てめぇとはこれっきりだ。」

 

ゾロの頬に手を滑らせ、ちゅっと口付けて踵を返した。

途端、羽交い締めのようにゾロがサンジを抱き留める。

 

「悪かった。」

 

「反射で謝んじゃねーよ。 

 時間やっから、ちったぁ考えろ。」

 

「考えるまでも無ぇ。 

 ―――おれが悪ぃ。」

 

サンジは自分の胸の前できつく交差されている男の腕にそっと触れた。

 

「てめぇがてめぇだから惚れたんだ。 

 変えさせてぇなんて思わねーし、ただの仲間にも戻れねー。

 離す気は無ぇぞ。」

ぽつぽつと話すゾロの言葉に、サンジが緊張を解く。

強張っていた肩から力が抜けて、背後のゾロにもたれかかった。

 

理由も分からず、苛ついているゾロを見ていた数日。

果てに信用できないとまで言われ、サンジは疲れ果てていたのだ。

 ――これっきりだ、勢いで言った自分の言葉を即座に否定してくれたのが嬉しい。

わかっている。離れられないのは自分の方だ――

 

「ゾロ お前に惚れたことを後悔させんな。」

 

「悪かった。二度と無ぇ。 

 おめぇに惚れて良かった。」

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次はぬるーいHだけです。飛ばしていただいても問題ありません。

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