chandeleur〜クレープの日〜 2

before

 

いつから出来上がっていたのか、さすがにそこまでは知らないが、ナミとロビンが気づいたときには、ゾロとサンジは紛れもなくカップルだった。

隠そうともしないゾロはともかく、いまだ知られてないと思っているサンジがちょっとしたことで慌てふためいたり、そのくせ酔わせればぽややーんとノロケ話を口から滑らす、それが二人は可愛くて仕方なかった。

(バカな子ほどかわいいってホントね。)

と年下の女性からしみじみ思われていることなど、気づきもせず、当人は額に汗を滲ませながら、クレープ指導をしている。

 

まずレディの分、と2枚お手本で焼いたサンジに続いて自他ともに認める器用なウソップがコンロの前に立つ。
熱したクレープパンに薄くバターを伸ばしたところへ、レードルですくったタネを流し込む。
「傾けて、満遍なく伸ばせ。」
言葉とともにウソップの背後から手ごとパンをつかみ、くるーりと回すようにタネを隅まで行き渡らせる。

(あーらら)
抱きつくような格好に敏感に反応したのは女子二人。いや、密かにもう一人。

ピクリと眉の上がったゾロを見て、再び(あらあら)と思った心情が(面白くなりそう)であることこそ、可哀相なゾロである。

無難に焼いたウソップ、チョッパー、ブルックだが、裏面を焼くときに端がめくれてくっついてしまった。
そこが難関か、と次のフランキーは10本の指先から鉄串を伸ばし、するりと円周全部から持ち上げてキレイにひっくり返したが、「反則だ」との抗議を受けあえなく敗退。
ルフィは見事な団子を作り上げ、そしてゾロの番。


神妙な面持ちでパンとフライ返しを駆使して、出来上がったそれはきれいなまん丸。両面に適度についた焦げ目。一見完璧かと思われたが。
「分厚っ!なんじゃそりゃ、ピタパンか。それじゃ巻けねーだろ!
「薄くすりゃ良いんだな!!」
すらりと剣を抜くとすかさずサンジの踵が脳天に炸裂した。
「アホか!!人斬り包丁で食いもんスライスする気か!!」
と言うわけで、暫定四位となった。
しかも一位三人の作品も、サンジと女性陣の判定では、船の命運を委ねるには程遠い出来。
二回戦の開幕である。

 

順番決めじゃんけんをしている間にできたクレープはカスタードクリームとイチゴを段々に積み重ねたミルクレープに変身する。女性陣の前にサーブされるアングレーズソースをトロリと纏ったそれに目を奪われたルフィが棄権を宣言した。
「サンジ~、おれはカチョウより食べる係がいいぞ!」
続いて棄権するもの、意地になって焼き続けるもの入り乱れたおやつ風景の末、最後まで焼いているのはゾロ一人となった。


「クソマリモ、もう上等じゃね?みんな棄権しちまってるし、てめぇの勝ちだ。」
「アホ。そんな譲られた勝ちなんざ要るか。」
「もうタネも無ぇじゃん。」
カウンターキッチンの前に座って、諦めさせようとしているようなサンジだが、ナミ達の視線はその手元に集中する。
「無いとか言って、新しいタネ作ってるわよね。」
「ええ、しかもあの大きなボールでたっぷりよ。」

「まあな!クレープは焼いときゃ冷凍も出来るし、いくらあってもクソゴムが食うからいいけどよ!」

女性陣の鋭い眼は次のターゲットを見つける。
「ねえ、ゾロあれ食べてる。」
「そりゃそうよ。愛情たっぷりですもの。」
あれとは、ハムとレタス、チーズ、マヨネーズ巻いたクレープ。作業しながら食べやすいように小さくカットして楊枝で止めてある
「ホンット「マメよねぇ~」」
「ナミさん!!ロビンちゃん!!お茶のおかわりはいかが!?良い風出てきたし、甲板に用意するよ~!」
「サンジくん、冷た~い。そんな邪険にしないで~。」
「ふふっ、そりゃ邪魔よね。」
「な!そんな、お二人を邪魔になんて…!」
「うるせえ、てめぇら。出来たぞ。」

ゾロの手元には、完璧な円を描く薄いクレープ。厚みも均一で色味も程よく、紛う事なき大成功だった。

「すげえ。ははっ!頑張ったなぁ~、ゾロ!」

ナミとロビンは椅子から立ち上がると、サンジの脇をすり抜けた。
「それは二人でいただきなさい。」
「うちを導くラッキーアイテムでしょ、心して召し上がれ。家長サン!」

場所を交代したサンジの手でオレンジソースが作られる。

クレープを静かに沈め、グランマニエをかけてフランベすると蒼い炎が揺らめき、ふわりと芳香が立ちのぼった。
音もなくゾロの前に置かれたクレープシュゼットをゾロがそのまま押し返す。
「おまえが食え。」
ナイフでカットしたそれをゆっくり咀嚼する。ゾロは無言で見届けていた。
「美味えよ。」
フォークで刺した一切れをゾロに差し出しながら、サンジが言葉を続ける。
「なぁ、なんであそこまでムキになってたんだ?」
「てめぇは分かんなくていい。」
「おれの旦那様とか言われてたからか?」
「!っんだよ、分かってんじゃねえか。」
「だって、あんなおふざけ…。」
「お遊びだろうが、なんだろうが、てめえの旦那と言われちゃ他のヤツに譲るわけにゃいかねーじゃねえか!」
「おまえ、おれの旦那なの。」
「…違うのかよ。」
「ふっ、へへへ…」
立ち上がったサンジは零れる笑みを抑えきれないまま、ゾロを背中から抱き締める。
「嫁さんにゃなれねーけどな」
「そんな言葉尻はどうでもいい、おれの連れ合いはてめぇだろ。」
ゾロの肩に熱くなった頬を埋めるサンジには見えなかったが、クレープを食べ進めるゾロの目許も朱に染まっていた。

 

fin


クレープの日でした。

クレープの黄色い丸いところが太陽を思わせるから、2月2日聖燭祭の日に食べるとか、

小麦粉が貴重だったころ、キリスト教のお祭りのときの豪華なデザートとしてクレープを食べたとか

いろんなお話があるようですが、ともかく、2/2はクレープの日なんですって。

フランスの伝統的な習慣として、なにかで読んで、気に入ってたので、やりたかったの。

あと、お口アーン がしたかった(笑)

 

話中でやってるのはクレープ占い。

本当は、片手にクレープパンを持ち生地を広げ、もう片方の手には金貨を握る。

クレープを宙に投げ、クレープパンに戻すことができたらその年は幸運に恵まれる、というものなので、

ちょっと違います。

空中ポーンは難しすぎるでしょ。