chandeleur〜クレープの日〜 1

「野郎どもー!手洗ってキッチン集合ー!!」

そろそろおやつか、という時間帯。女性陣には早めにサーブされたコーヒーを口に運びながら、ラウンジの入り口で呼ばわる料理人を眺めるアーモンドのような瞳がイタズラっぽく弧を描く。
添えられた小さなマカロンを摘まむ指先はたおやか。
「何があるのかしら?」
「洗濯?掃除?だったら、おやつ食べさせてからにしそうよねー。」

甲板に広げたパラソルの下、二人の美女は楽しそうに囁き交わすと、飲み干したカップを手に手に持って立ち上がった。

 

ラウンジに入ると、カットされたフルーツや様々なクリーム、ハムやレタス、チーズがテーブルに並んでいる。そして、大きなボウルを持った男。

「ナッミすわ〜ん、ロビンちゅわ〜ん♪ 下げに来てくれたの〜?やっさしいいいい〜〜!」

クルクルと回りながら、二人の元に跪いたサンジに空になったカップを渡し、「それと、見学」とナミが笑った。

「なにが始まるの?」

「今日はクレープの日だからね、こいつらにやらせようと思って。」

「ああ!chandeleur!」

ロビンの頭が答えをはじき出した。

「は?しゃんでるーるー?」

「そう。シャンデレール。冬至から40日目のノースのお祭りだよ。

 この日はレディじゃなく、家長がコインを握ってクレープを焼いて、上手に焼けたらその家はハッピーってね、言われてる。」

昼寝を中断され、不機嫌だったゾロの眉間のシワが益々深くなる。

口を開こうとした矢先に、サンジが言葉をかぶせる。

「くだらねえけどさ!おもしろいだろ。」

「うん。いいじゃない。家長って言ったら、ルフィ?なーんか、イメージ違うわね。」

「家長つったら、年長者なんじゃねーの?」

ウソップの言葉に、チョッパーが答える。

「じゃ、ブルックか!」

「え~、なんか家長っていうより、ご隠居?」

「いいじゃない、全員やって、上手に焼けた人がうちの家長ってことにしたら?」

と、なんとも合理的なロビン。

「いいわね!ハッピーにさせる人が家長ね。」

ナミが賛成すれば、それはこの海賊団では決定だ。

「ははっ!そりゃ間違いねえや。ほい、じゃ、誰からだ?」

サンジがクレープパンとコインを差し出した。

「焼いた分だけ、食っていいのか!?」

ルフィの声には無言の踵が降ってくる。

 

「おれはいい。くだらん。」

「焼かないとおやつ無えぞ!」

「じゃあ、いらねえ。」

サンジが蹴りかかる寸前、ナミの言葉がゾロに届いた。

 

「あら、いいの? 家長と言えばダンナ様よ。うちのお母さんが誰か、なんて考えなくてもわかるでしょ?」

 

「サンジのダンナ様になったら肉食い放題かぁ〜!?」

キランと目を輝かせるルフィに、ウソップが突っ込んでいるのすら、ゾロの心をささくれ立てる。

「よほほほ〜 それは頑張らねば!サンジさんのダンナ様なんて良い響きじゃないですか!」

「それより家長ってのが惹かれるね!フランキー一家の屋台骨だぜ、おれさまは!」

「くそっ。」

「あれ?やるのか?ゾロ!おれも負けねえぞ〜!」

 

ドカッと座ったゾロに、サンジだけは「なんだよ、だったら、最初から素直にやりゃいいものを…」とぶつぶつ文句を垂れ流しているが、明らかにウキウキしているのが女性陣には可愛くて仕方ない。

 

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