バニーホップ

すっかり『バイト料貰ったらラブホ』がお決まりデートとなったおれ達は今日も初めてのホテルへ来た。

経験値の少ない(と言うよりゾロ以外を知らない)おれは、いつも主導権を握られてしまうのが、常々不満だったんだ。

今日こそは、おれがリードしてやるぜ。

 

鼻息荒くドアを開けると、サテンのシーツにふりっふりのレース。天蓋まで付いている。

入り口で固まったおれの後ろで、うっと唸ったままゾロも固まっている。

 

よし!ゾロも初めての所ならちょうどいいじゃねぇか、気を取り直して仕切ってやる。

 

まずは敵を知らねば、と室内を見回した。

アメニティもすごい。ゴムもファンシーな柄でイチゴ味、桃味、チョコ味、バニラアイス味…ってかいくつあるんだよ。多いだろ。

ヘアゴムにリボン、つけ耳まである。

見なかったことにしよう。

その棚の横には、衣装の山…ピンク、白、水色等々のフリルとレースがどビラッとついたドレス、ここは何しに来る所だっけ?って考えちまうようなラインナップだ。

ま、要するにコンセプトはお姫様ってことなんだろうなぁ、つくづくおれ達には似合わない部屋に入っちまったもんだ。気力が萎え始めたおれに一筋の光明がさした。

衣装の山から見つけたシックな黒い衣服を手にしたのだった。

 

 

意気揚々と着替えたおれをゾロがジッと見ている。

それは期待していたドキドキとか、ウットリとかいう視線ではなく、久しぶりに会う親戚のおっさんのような…

 

「懐かしいな。」

 

ムキーッ、んなわけねーだろ、よく見ろ!

おれの姿は、黒いスラックス。白いワイシャツにアームベルト、黒いベストに蝶ネクタイ。ジャケットは大きかったので手に持っているが、執事風になっているはず。ちなみに、学校の制服は学ランでブレザーを懐かしがられる謂われは無い。

「おまえ、覚えてねーの?しちごさ…」

 

「うるせー、うるせー、うるせー!!」

 

ちくしょう、覚えてるよ、おれもチラッと思ったんだよ、ちくしょう!

 

忘れもしない、七五三。

ゾロは大工の息子らしく、背中に屋号の入った法被にキリリと捻り鉢巻をしていたんだ。

別におれたちの町では珍しくない。左官の息子も鳶の家も似たような格好だった。

けれど、ゾロは誰より似合っていて、抜きん出てかっこよかった。

おれたち年少組も七五三で神社に集まっていたのに、一番の話題は年長組のゾロだった。

羨ましくて、憧れて次のときはお仕事の服着るって、クソジジイに言い続けたんだっけ。サラリーマンの婿の手前だったんだろうな、結局スーツだったけど、あの頃は甘かったクソジジイはクリスマスにコック服をプレゼントしてくれた。

遊び半分のお手伝いが、マジな修行になったのはあれからだ。

 

「おい。…あー、似合ってるぞ?」

ムスッと黙り込んだおれを見て、ヤバいと思ったんだろう。

ゾロが柄にもない猫なで声で頭を撫でてくる。

今さらだ、バーカ。

 

でも

 

こんなことで浮き立つおれはもっとバカだ。

 

骨抜きにしたかったら、もっと自分好みにしろと、おれの文句は封じられシャツを脱がされた。外そうとしたネクタイは慌てて止められ、裸にベストと蝶ネクタイという、なんとも間の抜けた格好。

「こんなんがてめぇ好み?」

「おお、これが無けりゃもっと好みだ。」

ニヤリと笑ってズボンに手がかかる。

サイズの合わないスラックスはあっという間に剥ぎ取られ、下は黒いパンツ一枚になってしまった。

咄嗟にベストの裾を引っ張って下を隠すと、いいなそれ、と言いながら襟から覗いた乳首を摘まれた。

 

こいつに勝とうとしたおれが間違ってたのか?なんだよ、この変態っぷり!?

 

仕上げ、とつけられたうさ耳カチューシャでようやくわかった。レオタードでこそ無いけれど、バニーちゃんなわけだ。

 

ほら、リードしろ、とふんぞり返るヘンタイをえいやっと押し倒し、キスをした。

いたずらな手がおれの服の下に潜り込むのを触るな、と一喝する。

分厚い下唇をやんわりと噛み、歯列を突っつき、舌を絡めておれの陣地に引っ張り込むとジュッと吸うと、ゾロの鼻息がおれの頬を擽った。

 

チュッ、チュッと接吻けながら胸に手をやると、ドクンドクンと激しく押し返す鼓動。

 

「え、なんで?」

 

「なにが。」

 

「おまえ、すげぇドキドキしてる?」

 

「ったりめぇだろ!!おれだって、惚れたヤツとやんのはてめぇが初めてなんだ。」

 

赤黒く染まった、珍しいほど照れた顔で、とんでもないことを言いやがる。

 

今までの彼女たちに謝れ、って怒んなきゃいけないのに、どうしよう、嬉しい。

 

「やりたいことも、やらせたいことも、いっぱいあるんだぜ。なぁ、触りたい。サンジ。ダメか?」

 

熱っぽい眼で見られて、背中がゾクゾクする。

 

いつの間にかおれたちの位置は入れ替わり、ゾロが被さるように顔を覗き込んでいた。

 

「サンジ。」

 

「触って……いい…」

 

結局おれはされるがままで、いつもの通り、トロトロのヘロヘロにされてしまった。

 

マグロは飽きられる、なんて言葉がよぎるけど、もうちょっと待っててくれるよな。

 

fin

AMOうさぎ様サイト誕生日おめでとうございます。

いつもツイッターでは声をかけてくれてありがとう。これからも構ってね。

イラストにしてくださる、ということでエロ控えめにしましたら、まぁ~かわいいサンジをいただいて!

ありがとうございます!