Bon Voyage 2

「えっ?ちがうよ、ルフィじゃない。 

なんで・・・って、そっか。ナミさんはルフィか。」

 

「え!ちが、ちがうわよ。 

サンジくんバラティエ出るの嫌がってたから、なんかあったかな、って思っただけ!」

 

ナミが耳まで赤く染めながら、珍しく必死に反論するが、もちろん通じない。

 

「はい、はい。そうですね~、なんかはあったかな。

でも、ルフィじゃないから安心して~って、ルフィ男じゃん!」

 

「おそ!」

 

サンジの反応に、ナミも合点がいくものを感じ、にやりと笑う。

 

「あ~、わかっちゃった。男なんだ、本命。」

 

このままルフィの話に路線変更を望んでいたサンジだが、あっさり形勢逆転され、更に追い込まれる。

「自分だけ弱み握って終わるつもり?卑怯じゃない、言いなさい!ウソップ?ゾロ?」

 

「あ――、なんで二択―――」

 

「だって、そうでしょ?」

 

サンジが頭を抱え、大きくため息を吐く。

「は――っ 

 衝撃的な映像を見ちゃって、そんな気になっちゃってるだけです。

 おれは本来レディにしか恋できない男なんでね。

 今は一刻も早く忘れて、軌道修正しようと思ってるから、ナミさんも忘れて?」

下からのぞくようにナミを見上げ、両手を合わせる。

 

「男同士だから?」

 

「まぁ、それもあるけど、

 あんな命がけの人生を送ってるようなヤツに惚れてたら、こっちの心臓がもたないよ。」

 

「それは私もかも。」

 

「ははっ!

 ねぇ、ナミさん。楽しみだね。一緒に航海しようね。」

 

「きっと、惚れた腫れたなんてやってる暇もない、大変な旅よ!」

 

「そりゃ、願ったりだ!

 でもさ、ナミさん、応援するよ?」

 

「ありがと。私だって応援したいのよ?」

 

「忘れる前に、覚悟が決まったら・・・お願いするかもな~?」

 

「あいつの船での寝腐れっぷりみたら、あっさり冷めちゃうかもね!」

 

「そんなひでぇんだ!って、なんで特定できてんのぉ~」

 

「ウソップが命がけの衝撃映像なんて見せられるわけないもん。」

 

「あ~、もう、聡明なナミさんもステキだぁ~

 おれに乗り換えちゃう気になったら、言ってね~ん。」

 

「はいはい。」

おふざけを軽く流すと、サンジが思いがけず真摯な眼でナミを見つめていた。

 

「村でやり残してることあるだろうけどさ、絶対夢を叶えて無事に戻ってこようよ。

 きっと旅に出るのは今を逃しちゃいけないんだ。この最高のメンバーでグランドラインに行こう。」

 

「うん、うん。そうだね。」

今出発したらココヤシ村での幸せを逃すんじゃないか、

旅に出たいのは、純粋に夢のためか、ルフィについていく言い訳なんじゃないか、

ナミの中で揺れ動いていた天秤がスッと静まった。

 

今こそ、船出のとき。

 

fin