何かの始まり

頭の中で鐘をつかれているようにガンガンと響く痛み。

胸はムカムカと重い。

あぁ、久々に酔った。

一人で旅をしてるときは絶対無かったんだが、

信頼する仲間を得て、酔いに身を任せる心地よさを知った。

良いんだか、悪いんだか。

 

起き上がろうとして、胸の重っ苦しさが、身の内だけでなく、物理的な重さだと気づいた。

目をやるとサラサラの金髪が朝陽を反射して煌めいている。

なんで、こいつがおれの上で寝てるんだ?

 

身じろいだ拍子にコックの肩から毛布が滑り落ちる。

そこには白い肩・・・いつものスーツどころか、この感触は裸じゃないか?

愕然としつつ、自分の下肢を探ると、やはり、というべきか裸だった。

そのとき金髪が頭をもたげた。

 

「ん・・・」

 

かすれた低音が甘さを伴っていて心臓が跳ねる。

 

「おはよう。早いな。」

 

とろんとした半眼がおれを見て、微笑んだ。

 

「おまえ・・・」

 

「ん?」

 

「なんで、おまえなんだ?」

 

疑問をそのまま対象者に投げかけた。

コックは目を見開き、少し開いた唇は震えて、何も紡がずに閉じられる。

「おい」

再び声をかけると、フイと顔を逸らし、裸身が立ち上がった。

背を向けて服をつけようとする内股に流れた白濁液がなまめかしい。

強靭な足腰を誇る男が何度もよろめくのを見ていられず、

助けの手を伸ばすが、邪険に振り払われる。

結局、答えは得られないまま取り残されたが、あいつとヤッたことは間違いなさそうだ。

見回すと、見慣れた天井、壁、よりによって船のキッチンか。

溜まれば女を買うこともあるが、まさかあいつとするとはな。

 

 

 

簡単に服を羽織り浴室に駆け込んだ。

熱いシャワーを浴びても、体の震えが止まらない。

鏡に写った全身の情痕が見るに堪えなくて、闇雲に擦るが消えるわけもなく。

「ッツ」

胸の尖りに指先が触れて、痛みが走る。

途端、脳裏に昨夜の情交がよぎる。

前立腺を何度もこすられ、突かれて、イキたくて、でも後ろだけでイクなんて恥ずかしくて、

前に伸ばした手を絡め取られた。

恥を忍んで「前も触って」と頼んだのに、前?とニヤリと笑って

片方の乳首を痛いほど噛まれ、もう片方を抓られ、引っ張られてイってしまったんだ。

 

「バラティエで・・・」

 

そうだ、確かにバラティエって言った。

おれだとわかってたんじゃないのか?

 

「ケツと乳首でイクなんて、相当だな。本当に初めてかよ。

 バラティエではこっちの客も取ってたんじゃねぇの?」

 

ゾロの声が蘇り、涙が溢れた。

 

そうか。

 

人違いか。

 

たまに意識がはっきりすることもあったのだろう、そして、おれだと認識したときには

酷い言葉を投げつけたわけだ。

 

ヒドイことを言われた。

ヒドいセックスだった。

おれはどうして気付かなかった?

あれは好きな相手にするセックスじゃない。

 

まして

 

相思相愛になったばかりの恋人とするセックスじゃないだろう。

とんだ勘違いだ。

お笑いだ。

 

バシャバシャと何度顔を洗っても、滲んだ視界が戻らない。

苦しい。

苦しい。

苦しい。

 

コンコンとノックの音が響き、身を固くする。

まさかゾロか?

「なぁー、風呂入ってんの誰だぁ?便所行っていいか?」

聞こえてきたウソップの声にホッと力を抜く。

「おれだ!開けていいぞ!」

シャワーカーテンをひき、湯船に体を沈ませる。

船の浴槽は深い。

揺れても零れないようにできているから、普通半分以下しか湯を張らない。

それで肩まで浸かれるのだ。

だから、座ってしまえば頭のてっぺんしか見えない。

「おー、サンジか、悪ぃな。やっぱ昨日は飲みすぎた~

 ションベン、ションベンっと。

 しっかし、サンジくん~おめぇ、早いな~」

能天気なウソップの声に日常が呼び戻された気がする。

「さすがに今日はみんな、なかなか起きて来ねーだろ。もっとゆっくりでも良いんじゃないか?」

「そうだな。」

「あれ?声変じゃね?風邪ひいたか?」

「いや、飲み過ぎただけだ。大丈夫。」

 

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