ひなまつり

「サンジさん、何作ってるんですか?」

砂漠のプリンセスの疑問にマジパンをこねる手を止める。

 

「明日はひな祭りだからね~、ケーキに飾るお雛様だよぉ~

 ナミすゎん、ビビちゅわん、た~のしみにしててね~」

 

「ひなまつり?」

「あ、アラバスタではやらないかな?

 女の子のお祭りで、人形を飾ってお祝いするんだよ~」

 

「飾る?」

思いがけず、剣士から反論の声があがる。

「川に流すんだろ?」

 

「はぁ?なんだ、そりゃ。」

 

剣呑な雰囲気になる前に、聡明な航海士が諭す。

「どっちも正解よ。

 元々は穢れを人形に移して川に流してたって聞いたわ。

 ファーイーストの風習だから、ゾロの地方では元来のやり方が残ってたのね。

 広がるにつれ、立派な人形になり、飾るようになったのよ。

 うちのは貧相だったけど、飾ってたわよ。」

 

「おーい、ナミ!

 新聞来たぞ!!」

 

甲板で釣りをしている年少組の声に答え、ビビと連れ立ってキッチンを出て行く。

 

出鼻を挫かれたゾロも、遅れて甲板へ向かうと、

「今日は3月2日か!?

 サンジの日だな!!」 とルフィの声がする。

 

「えぇっ!?

 サンジさん、今日誕生日なんですか?

 知らなかった!」

 

「じゃ、今日も宴だな!!」

 

「そんな用意してるようにゃ、見えなかったがな。」

 

「サンジくんが自分から、自分の誕生日パーティーなんて企画しないわよ、言ってこなきゃ!」

 

様々な声があがる中、ルフィがキッチンに飛んで行く。

 

「サ~ン~ジ~

 今日は宴だぞ!!」

 

「宴は明日だ!

 2連チャンするほどの備蓄は無ぇっ!!」

 

あっという間に蹴り返されてきたルフィを見やり、ナミがサンジを説得する。

明日は、ちらし寿司さえあれば良い、今日こそ華やかに・・・と。

 

ナミの提案に反論する訳もなく、サンジは突如今日催されることとなった宴の準備を始めた。

 

 

 

 

甲板に宴席が用意され、全員で乾杯の杯を掲げる。

「「「ハッピーバースデー!サンジ(くん)(さん)」」」

 

「は?」

 

「「「えっ?」」」

 

「おれ?」

 

コクコクと頷くクルーたち。

 

「誕生日じゃないよ?」

 

「ルフィ!あんた、また適当なこと言ったわね!」

 

「32だからサンジの日だって言っただけじゃんかよ~」

 

「なによ、それ!じゃぁ、いつなの?サンジくん。」

 

「おれ、誕生日なんて無いよ?」

 

「「「はぁ~っ!?」」」

 

「いや、この時代に珍しくないだろ?おれ、捨て子だもんよ。」

 

「あたしだって似たようなもんよ、でも、今まではどうしてたの?バラティエでは?」

 

「適当に。年が明けたら一つ足してた。

 クソジジイにも誕生日聞かれたことあったけど、知らんっつったら、そうか、で終わったしね。」

 

「あんのクソジジイッ!」

 

本人はともかく、人の養い親をクソジジイ呼ばわりするナミを見やり、

フォローするようにゾロが口を開く。

 

「おれの村も年寄りは日付にこだわってなかったぞ。

 なんでも、生まれたてが1歳で、年が明けたら一つ歳をとるって数え方だったらしい。

 途中で変わったとか言ってたが、あのじいさんもその口じゃねぇか?」

 

17歳コンビが驚きの声を上げる。

「へぇ~、12/31に生まれたら、生後2日で二歳かよ!?」

 

「そうなるな。」

 

「じゃぁ、サンジ。おれ達と同い年かぁ?」 半端に理解したルフィが、17歳かと聞く。

 

「いや、年は確かだぜ。

 4月に拾われたんだけど、まだ首もすわってなかったらしいから。」

 

二歳、三歳になると栄養状態によって区別も難しくなるが、生後一年の成長速度は大差ない。

生後1、2ヶ月で捨てられたということだろう。

 

大事な仲間を祝うはずの宴会が、その仲間の辛いだろう過去を暴く結果となってしまい、

乾杯の手もそのままに困惑した空気が流れる。

 

一番困惑してるであろうサンジが口を開く。

「今年から今日が、おれ様の誕生日な。

 最高のプレゼントだ。サンキュ!キャプテン。」

 

「サンジくん・・・いいの?」

 

「ナミさん、おれが生まれてきたことを喜んでくれて、祝ってくれようとしてたんでしょ。

 

 ありがてぇよ。こんなプレゼント、貰えるヤツいねぇよ!?」

 

全員の顔を順々に見ながら、ありがとう、と嬉しそうに笑った。

 

「サンジさん

 あのね、赤ちゃんにとって最初の1ヶ月に貰う母乳がとっても大事で、強く育つんですって。

 サンジさん とても丈夫でしょ。だから。

 サンジさんのお母さんは、手放さないといけない事情があったかもしれないけど、

 絶対サンジさんを愛してたわ。慈しんで、育てたかったはずよ。」

 

「・・・そっか・・・母親ね、考えたことも無かったぜ。ありがと、ビビちゃん。」

 

「よし、20年分の誕生日だ!」とウソップが仕切り直しに叫ぶ。

 

「「「ハッピーバースデー!」」」

 

fin

 


実はテキストサイト作ろうなんて思ってもいない頃に、これ書いて友達にメールで送りつけてました。ホントの初書きってことですね。なんとも拙いのですが、自分の好きな妄想設定詰め込んでますので、発掘。

 

あ、初乳は大事ですが、そこまで威力はありません。念のため。