宴の夜の常として、不寝番を引き受けたゾロの元に鼻歌が近づいてきた。
「ご機嫌だな。」
「おうよ、最高だぜ。この歳になって誕生日ができるとはなぁ~ へへっ」
「霜柱って知ってるか?」
「ん~?一応、知ってっけど、本物は見たことねぇな。」
「おれが、朝稽古に行く頃、地面は一面霜柱でサクサクいうんだ。
川は雪解け水が流れ始めてて、すげー勢いでな。」
突然の珍しい話題に耳を傾ける。
「枯れ枝みてぇだった木々の先が膨らんで、こまっけぇ芽が出る。
雪の割れ目からは、蕗の薹や土筆が顔を出す。
空はスコーンと晴れて、新芽やら雪やらがみんなキラキラ光ってんだ。」
「それがお前の故郷か。」
「おう。てめぇの誕生日はそんなんだ。」
「は・・・」
ポカンとゾロを見つめたまん丸の目玉が、ふんわりと弧を描く。
「良い季節だな。」
ゾロがサンジの手を取る。
しっとりと冷たい手。
ひたすら重く積もる冷たい冬の雪ではなく、命の息吹きを垣間見せる、溶け始めた春の雪。
「あぁ。てめぇにピッタリだ。」
捉えた手のひらに、チュッと口付ける。
そして、何よりも。
「そうなるとな、漬け物ばっかのメシも終わりの合図だ。」
「あははっ!おれの季節か!」
「そうだろ。てめぇがいなきゃ、美味いメシにはありつけねー。」
豪奢な金髪に指を絡めながら、満足げに頷く。
村の黄金色と言えば秋の稲穂だが、全体が煌めく春の方がぴったりではないか。
満ち足りた幸せの中で、二人いつまでも抱き合っていた。
fin