何かの始まり A-6

勧められたホテルは申し分なかった。

街を遥か下に見下ろしながらの食事は妙に征服欲を刺激するらしく、

ナミさんとウソップは代わる代わる高笑いして支配者ごっこをしている。

あーぁ、そんなことしてるから、またルフィに食われてる。

「おい、ウソップ。てめぇの皿、空だぞ。」

「あぁ!無くなる前に教えてくれよ~」

「知るか。」

 

「ねぇ、サンジくん。それゾロの?」

ルフィから隠して椅子の上に置いているタッパーウェアを指さされる。

港のオヤジが伝えてくれたのだろう、食事は祝い膳の形にしてくれていたのだ。

タッパーウェアには、赤飯と少々のおかずをよけていた。

「まぁ、一応。小豆外しは縁起悪いって言うし。」

「早く来れば良いのにね、ホンットばか。」

「メリーで待っててやれば良かったかな~。迷ってるんじゃねぇか?」

「船に帰れたんなら、地図も置いてあるし、オヤジも気をつけてくれるって言ってた。

 メリーに帰れないなら、おれ達が待ってたって無駄だ。自業自得だろ。」

「そうよ、ウソップ。あんた甘すぎ。

 打ち合わせもしないで飛び出したバカのことなんて放っときなさい!」

 

その時、息の上がった、物凄い形相の男が現れた。

 

肩で息をしながら、近づいてくるそいつから目が逸らせない。

 

「ゾ、ロ。」

 

ナミさんが振り向いた途端、顔をしかめる。

 

「あんた、くっさい!何、この安っぽい香水臭!」

「ゾロ~、おめぇ、よく一人で来れたなぁ。なんでそんな息切れてんだ?

 階段上がったのか?」

「どろ、ぼへぇのはふってはひど。だんじが、はふひてっはら!」

「そうなのか。わりぃな。」

プッ

「マリモ!よく今の分かったな!」

「『ゾロ、おめぇのは食ってないぞ。コックが隠してっから。』だろ?」

さりげなく、サンジをコックに言い換えたな。

突っ込むべきかわからず、無言でタッパーウェアを渡す。

受け取りがてら、必要以上に近づいてきた、と思ったら

耳元でとんでもないことを言いやがった。

 

「てめぇとやるために来たんだぜ。もぅ逃がさねーからな。」

 

 

食事も終わり、エレベーターに乗り込む。

手がゾロの甲に触れ、パチッと静電気の走ったような衝撃があった。

「あ、わり」

距離を取ろうとしたのに、手を握られた。

ルフィが振り向く、その気配に握り合わせた手は二人の体の背後に隠された。

手を繋いでるだけだ、大したことじゃない。なのに・・・心臓が飛び出しそうだ。

バクバクする・・・・。

 

ナミさんが可愛く振り向く。

「じゃぁ~ね。サンジくん、おめでと。ゆっくり休んでね。」

 

あぁ~ん ナミさん。こんなにかわいいのに、ごめんなさい~

今のおれは心からメロリンできません~。

 

「あ、おれたちの階だ。じゃぁな~」

「ゾロ~、サンジ~、ケンカすんなよ~」

ウソップとルフィが降りて行く。

 

扉が閉まった途端、抱きすくめられた。

貪るように互いの口内を味わう。

ダメだ。まだ何も話してないのに!

確認すべきことがあるだろう、おれ!

 

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